一 第一審判決は、被告人らが共謀のうえ「いま福井県敦賀市では占領軍兵員により婦女子に対するにくむべき強姦がいたるところでおこなわれていて、恐怖におそわれた敦賀市民は娘をどしどし疏開させている。うんぬん」という意味の真実に符合せずかつ公安を害するおそれある事項を掲載した新聞を印刷したとの事実を認定して、昭和二一年勅令第三一一号第四条第一項、第二条第三項、昭和二〇年九月一九日附連合国最高司令官覚書「新聞規則」第一項、第二項を適用し第二審判決は被告人らの控訴を棄却した事件について、第二審判決後に平和条約が発効したときは、原判決後に刑が廃止された場合にあたるものとして、被告人らを免訴すべきである。 二 (裁判官栗山茂、同岩松三郎、同河村又介の小数意見) 昭和二〇年九月一九日附連合国最高司令官の「新聞規則」と題する覚書第一項、第二項はその趣旨内容に徴し単なる新聞論理の示唆に過ぎないものと認めるべきである。 三 (裁判官小林俊三の小数意見) 昭和二〇年九月一九日附連合国最高司令官の「新聞規則」と題する覚書第一項、第二項の該当部分は、もつぱら当時の連合国または占領軍の便宜利益のために発せられたものと認められ、且つその表示がきわめて一般的抽象的であるから、これをもつてわが国民に対し刑罰制裁を附して言論を制限することは、憲法第二一条に違反するものと認めなければならない。 四 (各裁判官の意見) 本件は原判決後に刑が廃止されたときにあたる。
昭和二〇年九月一九日附連合国最高司令官覚書「新聞規則」についての昭和二一年勅令第三一一号違反事件と平和条約の発効
「ポツダム」宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件(昭和20年勅令542号),連合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令(昭和21年勅令311号)4条1項,連合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令(昭和21年勅令311号)2条3項,昭和20年9月19日附連合国最高司令官覚書「新聞規則」(SCAPIN33),刑訴法337条2号,刑訴法411条5号,ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律(昭和27年法律81号),ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律(昭和27年法律137号)2条6号,ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律(昭和27年法律137号)3条1項,憲法21条,裁判所法11条
判旨
占領目的に有害な行為を処罰するポツダム勅令は、平和条約の発効により当然に失効し、これを維持することは憲法21条等の趣旨に鑑み許されない。したがって、同勅令違反の罪は平和条約発効により「刑の廃止」があったものと解され、被告人は免訴されるべきである。
問題の所在(論点)
平和条約の発効により、占領軍の指令に基づく罰則(ポツダム勅令)が失効した場合、刑事訴訟法411条5号および337条2号にいう「原判決後の法令により刑が廃止されたとき」に該当するか。
事件番号: 昭和27(あ)2 / 裁判年月日: 昭和30年7月20日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】占領軍の目的に有害な行為を処罰する勅令は、平和条約発効により、憲法上の保障(表現の自由等)との抵触や占領目的の消滅に伴い失効したと解される。これにより、当該勅令違反の事案は、刑事訴訟法337条2号の「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」に該当し、免訴すべきである。 第1 事案の概要:被告人等は、…
規範
占領軍の目的に有害な行為を処罰する法令(ポツダム勅令)は、占領という特殊な事態に対応するための臨時的措置であり、平和条約の発効によって占領が終了した以上、その根拠を失い当然に失効する。また、当該法令が言論の自由を制限する内容を含む場合、平和条約発効後もこれを存続させることは憲法21条に抵触する。このように法令が効力を失い罰則の適用が不可能となった場合は、刑事訴訟法における「刑の廃止」にあたる。
重要事実
被告人両名は、昭和20年9月19日付連合国最高司令官の「新聞規則」に基づき、「真実に符合せずかつ公安を害するおそれがある事項」を印刷・公表した。これが昭和21年勅令311号(連合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令)に違反するとして起訴された。第一審および原審(控訴審)は有罪としたが、上告審の係属中に日本国との平和条約(サンフランシスコ平和条約)が発効し、占領状態が終結した。
あてはめ
本件に適用された新聞規則は、連合国に対する虚偽または破壊的批評を禁止するものであり、表現の自由を保障する憲法21条に照らせば、占領終了後もこれを維持することは許されない。占領軍の便宜のために発せられた抽象的かつ一般的な言論制限は、平和条約の発効と同時にその国法たる効力を失ったと解される。したがって、本件被告人らの行為を処罰する根拠法規は、原判決後に消滅しており、実質的に罰するべき法令が存在しない状態に至っているといえる。
結論
本件は原判決後に刑が廃止されたときに該当するため、原判決および第一審判決を破棄し、被告人らを免訴とする。
実務上の射程
ポツダム宣言受諾に伴う特殊な法令の失効に関する判断であるが、憲法に抵触する法令が事後的に失効した場合に「刑の廃止」として免訴(刑訴法337条2号)を導く論理構成として参照される。もっとも、通常の法律改正による罰則廃止のケース(限時法等の議論)とは、占領終了という憲法上の大転換を背景にする点で区別が必要である。
事件番号: 昭和27(あ)2661 / 裁判年月日: 昭和30年7月20日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】占領軍の占領目的に有害な行為を処罰するポツダム勅令(昭和21年勅令311号)は、平和条約の発効により当然に失効し、又は憲法21条に反することとなるため、「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」に該当する。 第1 事案の概要:被告人等は、昭和21年勅令311号「連合国占領軍の占領目的に有害な行為に対…
事件番号: 昭和26(あ)4497 / 裁判年月日: 昭和30年6月1日 / 結論: その他
昭和二〇年九月一〇日付連合庫最高司令官の「言論及び新聞の自由」と題する覚書第三項の「連合国に対する虚偽又は破壊批評及び風説」を「論議すること」を禁止し処罰する部分についての昭和二一年勅令第三一一号「連合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令」違反の罪は講和条約発効後においては、刑の廃止があつたものとし…
事件番号: 昭和26(あ)880 / 裁判年月日: 昭和30年7月20日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】連合国占領軍の占領目的に有害な行為を処罰する勅令は、平和条約の発効により当然に失効し、憲法違反等の理由から効力を維持できない。そのため、本件は刑訴法337条2号の「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」に該当し、免訴すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、連合国占領軍の占領目的に有害な行為を処…
事件番号: 昭和26(あ)1601 / 裁判年月日: 昭和30年2月23日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】占領下における連合国最高司令官の許可なき出国行為は、その後の法令改正により許可が不要となった場合、刑訴法337条2号にいう「刑の廃止」があったものと解される。 第1 事案の概要:被告人は昭和24年12月、連合国最高司令官の許可を受けずに大阪府から沖縄へ不法に出国した。当時の法令(昭和21年勅令31…