判旨
憲法25条は、麻薬取締法による麻薬の譲渡し等の禁止を免除する根拠とはならず、自己の疾患の治療目的であっても同法違反の罪は成立する。
問題の所在(論点)
自己の疾患の治療目的、あるいは他人の治療への同情から麻薬を譲り渡した行為について、麻薬取締法違反の罪を問うことが憲法25条の生存権等の趣旨に照らして許されるか。
規範
憲法25条の規定の精神は、特定の犯罪行為(麻薬の無許可譲渡し等)について、動機が疾患の治療や同情に基づいているという事実のみをもって、当該行為の違法性や罰則の適用を否定するものではない。
重要事実
被告人は、自己の疾患を治癒するために麻薬を買い入れ、その残りを同じ病に苦しむ他人に分譲した。この行為が麻薬取締法3条(当時の規定)に違反するとして起訴され、同法57条の罰則が適用された。被告人は、これらの事情から本罪の成立を否定すべきであり、処罰は憲法25条の精神に反すると主張して上告した。
あてはめ
判決文によれば、被告人が主張する「疾患治癒のための買入れ」および「同病相憐れむ真情からの分譲」という事実は、原判決では認定されていない。また、麻薬取締法が禁ずる無許可の麻薬取扱行為は、公衆衛生の維持・向上を目的とするものであり、被告人の行為が同法3条の禁止規定に該当する以上、同法57条を適用して処罰することは適法である。憲法25条を根拠に、麻薬取締法の適用を免れようとする主張は、誤った前提に立つものである。
結論
被告人の行為には麻薬取締法違反の罪が成立し、憲法25条違反の主張は採用できない。
実務上の射程
生存権を根拠として薬物規制法規の適用を争うことは困難であることを示している。疾患治療等の動機は、事実認定や量刑において考慮される可能性はあるものの、構成要件該当性や違法性を直ちに阻却する根拠とはならない。
事件番号: 昭和27(あ)5925 / 裁判年月日: 昭和29年12月21日 / 結論: 棄却
旧麻薬取締法三条一項にいう譲渡は、同法が麻薬に関するあらゆる行為を取締の対象とすることによつて公衆衛生の保持を図つた趣旨から見て、麻薬の移転に関する行為は所有機の移転を伴うものに限らず、広く譲渡の観念中に包含せしめたものと解するのを相当とするのである(昭和二六年(あ)三六三四号同二七年四月一七日第一小法廷判決、刑集六巻…