判旨
憲法25条は国家に対し社会福祉等の向上・増進に努めるべき責務を宣言したものであり、麻薬取扱者以外の者が自己の施用目的で麻薬を所持することを禁止する麻薬取締法の規定は、同条に違反しない。
問題の所在(論点)
麻薬取扱者ではない者が自己の施用(治療)目的で麻薬を所持することを禁止する規定は、憲法25条が保障する生存権に抵触し違憲となるか。
規範
憲法25条1項は国家が国民一般に対し健康で文化的な最低限度の生活を営ませる責務を負うべきことを、同2項は社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上・増進に努力すべきことを宣言した趣意と解される。したがって、公衆衛生の向上等の観点から特定の薬物の所持を制限することは、同条の趣旨に反するものではない。
重要事実
被告人は、昭和20年頃に医師から購入した麻薬を自宅に隠匿し、昭和25年に保養院へ入院した際にもこれを所持していた。麻薬取扱者ではない被告人が、自己の身体に施用する目的で麻薬を所持していた行為が、麻薬取締法3条1項(当時)に違反するとして起訴された。これに対し被告人側は、自己の治療目的の所持を禁止することは憲法25条の生存権を侵害するものであると主張して争った。
あてはめ
麻薬取締法3条1項は、同法に定める例外(麻薬施用者からの交付等)を除き、麻薬取扱者以外の者の麻薬所持を一律に禁止している。憲法25条は国家の社会的福祉拡充の努力義務を宣言したものであり、薬物乱用による公衆衛生上の危害を防止するために所持を規制することは、同条が目指す公衆衛生の向上・増進という目的に合致する。したがって、たとえ自己の施用目的であっても、適法な手続を経ない所持を禁止することは、憲法25条の法意に照らし許容される。
結論
麻薬取扱者以外の者が自己の施用目的で麻薬を所持することを禁止する規定は、憲法25条に違反しない。
実務上の射程
生存権(憲法25条)の法的性格についてプログラム規定説的な立場を示した初期の重要判例である。公衆衛生を理由とする薬物規制の合憲性を肯定する際の論拠として使用できる。
事件番号: 昭和25(れ)180 / 裁判年月日: 昭和25年6月6日 / 結論: 棄却
麻藥取締法にいわゆる「麻藥施行者」とは、同法第二條第九項の規定に從い醫師、歯科醫師又は獣醫師に限られるのであるが、同法中の「施用」という言葉は、他人に對するばかりでなく、自己の身体に對する場合をも含むものと解すべきである。