一 審判の対象として認定されていない麻薬を没収した違法ある第一審判決を容認した原判決は、刑訴第四一一条第一号により破棄を免れない。 二 麻薬施用者たる医師が塩酸モルヒネ水溶液を中毒症状を緩和するため自己の身体に施用したとの犯罪事実を認定し、その供用物件として塩酸モルヒネ散を没収した違法ある第一審判決を容認した原判決は刑訴第四一一条第一号により破棄を免れない。 三 麻薬施用者(麻薬使用者)が麻薬取締規則施行当時より麻薬取締法施行当時に跨つて自己の身体に麻薬を施用した各犯罪事実全部につき後者を適用し、併合罪として処断した違法ある第一審判決を容認した原判決は刑訴第四一一条第一号により破棄を免れない。
刑訴第四一一条第一号にあたる事例
刑法19条1項1号,刑法19条1項2号,刑法19条2項,麻薬取締規則(昭和21年厚生省令第25号)34条,麻薬取締規則(昭和21年厚生省令第25号)56条1項1号,旧麻薬取締法(昭和23法律第123号)65条,旧麻薬取締法(昭和23法律第123号)74条,旧麻薬取締法(昭和23法律第123号)38条,旧麻薬取締法(昭和23法律第123号)57条,刑訴法411条1号
判旨
公訴事実に含まれず犯罪の対象として認定されていない物件や、客観的状況から犯罪供用物と認めがたい物件の没収は違法であり、また新法施行前の行為に対して重い新法を適用することは、法令適用の誤りに該当する。
問題の所在(論点)
1.公訴事実に関係のない物件を没収することの是非。2.犯罪の態様から見て供用が著しく困難な物件を「犯罪行為に供せんとした物」として没収することの是非。3.新法施行前の行為に対し、経過措置を無視して新法を適用することの是非。
規範
1.刑法19条による没収は、公訴事実として特定され、犯罪を構成する対象または犯罪に供した物件に限られる。2.犯罪に供しようとした物(19条1項2号)の認定には、物件の性質や被告人の入手状況等の客観的事実に照らし、その犯罪に用いられる蓋然性が認められなければならない。3.刑罰規定の適用にあたっては、行為時に施行されていた法令に従うべきであり、施行前の行為に事後の重い罰則を適用することは許されない。
重要事実
麻薬施用者である被告人が、自己の中毒症状緩和のため塩酸モルヒネを自己施用した。第一審は、(1)公訴事実に含まれず犯罪対象でもない燐酸コデインを所持禁止物として没収し、(2)経口用の塩酸モルヒネ散を注射による自己施用罪の供用予定物として没収した。また、(3)昭和23年7月の麻薬取締法施行前の行為を含む全期間に対し、より刑の重い同法を適用して処罰した。
あてはめ
(1)燐酸コデインは本件公訴事実に包含されず、犯罪対象として認定されていないため、これを没収することは法令に違反する。(2)塩酸モルヒネ散は経口用であり、注射用に転換するには複雑な操作を要する上、被告人は注射用の薬剤を別途容易に入手し得た。よって、特段の事情がない限り、これを自己注射という「犯罪行為に供せんとした物」と認めることはできない。(3)昭和23年7月10日以前の行為については、旧規則が適用されるべきであり、新法を適用して処罰したことは法の適用を誤ったものである。
結論
原判決には没収および法令適用の誤りがあるため、刑事訴訟法411条1号により原判決を破棄し、広島高等裁判所岡山支部に差し戻す。
実務上の射程
没収の客体は公訴事実との関連性が必要であること、および供用予定物の認定には客観的・合理的蓋然性が要求されることを示す。また、罪刑法定主義の観点から、法令の改廃に伴う適用違憲・違法を職権で是正する実務上の運用を認めている。
事件番号: 昭和27(あ)245 / 裁判年月日: 昭和28年4月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】麻薬取扱者でない者が、麻薬の譲受けおよび譲渡を行った行為は、麻薬取締法(当時)の定める禁止規定に違反し、同法に基づく処罰の対象となる。 第1 事案の概要:被告人は、麻薬取扱者の免許等を有していないにもかかわらず、塩酸モルヒネ粉末を譲り受け、さらに塩酸ヂアセチルモルヒネ(ヘロイン)注射液1CC入アン…