一 麻薬取締法第三条第一項但書には「但しこの法律の規定により麻薬を麻薬施用者から施用のため交付を受け又は麻薬小売業者若しくは家庭麻薬小売業者から譲り受け若しくは譲り受けた者がその麻薬を所持することはこの限りではない」と規定してあるから、この但書の適用のある場合は麻薬取締法の規定によつて麻薬の交付を受け、又は譲り受けた者がこれを所持する場合に限られることは明らかである。それゆえ麻薬取締法施行数年間にその子女の病気に施用するため入手した麻薬であつても、同法施行後の所持については右但書の規定はその適用がないものと解すべきである。 二 麻薬取締法違反事件の物件が麻薬であることを、薬剤師の資格を有する被告人の供述によつて認定しても不当ではない。 三 判示麻薬が、麻薬取締法第一条の何号に属する麻薬であるかを特に判示しなくても、違法ではない。
一 麻薬取締法施行前に入手した麻薬の所持と麻薬取締法第三条第一項但書の適用 二 麻薬であることの認定資料 三 麻薬取締法第一条にいわゆる麻薬の種類判示の要否
麻薬取締法3条,麻薬取締法1条,旧刑訴法336条
判旨
麻薬取締法施行前に正当な理由で入手した麻薬であっても、法施行後に同法所定の許容事由なく所持を継続する行為は同法違反を構成し、これを処罰しても憲法39条に違反しない。
問題の所在(論点)
麻薬取締法施行前に入手した麻薬を、施行後に継続して所持する行為が同法3条1項但書により許容されるか。また、同法施行後の所持を処罰することが、行為時に適法であった行為を処罰するものとして憲法39条(事後法の禁止)に違反するか。
規範
麻薬取締法3条1項但書の適用は、同法の規定に基づき麻薬を交付・譲り受けた者が所持する場合に限定される。また、同法は施行前の合法的所持であっても、施行後の所持については同法所定の許容規定に該当しない限り違法とする趣旨であり、施行後の継続所持を処断することは事後法の禁止(憲法39条)に抵触しない。
重要事実
被告人は、麻薬取締法施行の数年前、子女の病気治療に施用する目的で麻薬を入手した。しかし、同法施行後も引き続き当該麻薬を所持していたため、麻薬取締法違反として起訴された。被告人(薬剤師)は、入手当時は適法であったことや、施行前の所持を処罰することは憲法39条に反すると主張した。
あてはめ
本件麻薬は法施行前に入手されたものであり、「同法の規定により」交付・譲渡を受けたものではないため、同法3条1項但書は適用されない。また、本件で処罰の対象となっているのは、法施行前の入手行為そのものではなく、法施行後における「所持」という継続的な状態である。したがって、施行後の不作為(あるいは状態の維持)を処罰の対象とする以上、行為当時の適法行為を後から処罰するものではなく、事後法の禁止にはあたらないといえる。
結論
麻薬取締法施行前の入手であっても、施行後の所持は同法違反を構成し、合憲である。上告棄却。
実務上の射程
法令の制定・改正によりそれまで適法であった状態が違法とされる場合、移行措置がない限り、施行後の状態継続を処罰することは憲法39条に違反しないという法理を示す。薬物事犯のみならず、所持罪全般における「継続犯」的な性質と事後法の禁止の限界を検討する際の参考となる。
事件番号: 昭和27(あ)309 / 裁判年月日: 昭和29年2月25日 / 結論: 棄却
麻薬所得の罪において、一個の所持が罰則施行前より罰則施行後まで引き続きなされかつ新旧両法に跨つてなされたとしても、その一個の所持全体に対して新法を適用して処置すべきものであつて、罰則施行前の部分を分割して無罪の言渡しをなしまたは旧法の部分を分割してこれに対し旧法および刑法第六条をも適用すべきものではない。