一 原審が第一審の量刑を相当であるとして判示して、被告人に刑の執行猶予を言渡さなかつたのは、被告人の本件犯行が原判決に説示するような公務員の犯行として最も忌憚すべき性質のものであり且つその動機が遊女に溺れて遊興費に窮した結果であると認めその犯情決して軽いものではないと思料したからであることは判文に徴したやすく理解されうるところであつて、所論のように原判決は公務員と公務員に非ざる者を区別し被告人が公務員の身分を有していない者であるなら刑の執行猶予を言渡すのが相当であるが、被告人は公務員の身分を有する者であるから第一審判決の量刑は相当であるとの趣旨を判示していないことは判文上明らかなところである。そして犯情によつて刑の執行を猶予するかしないか等の犯人の処遇を異にすることは憲法第一四条に違反するものでないと解すべきことは、当裁判所大法廷の判例の趣旨とするところである。 二 刑の執行を猶予するか否かは刑の言渡を為すべき裁判官が諸般の事情を参酌して決定すべき裁量事項に属することは当然裁判所の確立した判例である。そして原審はその裁量権に基ずき犯情動機等を斟酌考量して刑の執行猶予を言渡さなかつた第一審判決を是認しただけであつて、何等執行猶予に関する法律上の見解を示してその法律上の判断を与えてはいないのである。されば原判決を以て所論大審院判例(大正一五年(れ)第五一一号事件)に違反すとの論旨後段は結局名を判例違反に籍りてその実原判決の是認した第一審判決の量刑を非難するに帰するから、刑訴法第四〇後条第三号に当らない。
一 公務員の犯行として最も忌憚すべき性質のものとして刑の執行を猶予しない判決と憲法第一四条 二 刑の執行猶予と裁判所の自由裁量―判例違反に名を籍りて原判決の是認した第一審判決の量刑不当を理由とする上告の適否
憲法14条,刑法25条,刑訴法405条3号
判旨
刑の執行猶予を付すか否かは、裁判所が諸般の事情を参酌して決定すべき裁量事項であり、犯情等の事情により処遇を異にすることは、憲法14条の法の下の平等に違反しない。
問題の所在(論点)
刑の執行猶予の付与が裁判所の裁量に属するか、また、犯情や身分等の事情に基づき執行猶予を付さないことが憲法14条(法の下の平等)に違反するか。
規範
刑法25条は「執行を猶予することができる」と規定しており、執行猶予を言い渡すか否かは、裁判所が諸般の事情を参酌して決定すべき裁量事項である。また、犯情によって刑の執行を猶予するか否かの処遇を異にすることは、憲法14条に違反するものではない。
事件番号: 昭和24(れ)136 / 裁判年月日: 昭和24年7月2日 / 結論: 棄却
刑の執行猶豫を與えないことが憲法第一四條に違反するものでないことは既に當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第七〇號、同年五月二六日大法廷判決)とするところである。
重要事実
被告人は、公務員という立場にありながら、遊女に溺れて遊興費に窮した結果、本件犯行に及んだ。第一審は、本件が公務員の犯行として最も忌憚すべき性質のものであること、およびその動機の卑劣さを考慮し、犯情が軽くないと判断して執行猶予を付さなかった。これに対し被告人は、公務員の身分を理由に執行猶予を付さないことは、非公務員との差別であり憲法14条に違反すると主張して上告した。
あてはめ
原審(第一審を是認したもの)は、単に「公務員であること」のみを理由として差別したのではなく、公務員でありながら遊興費のために犯行に及んだという「犯情」や「動機」を総合的に評価している。このような個別の犯情に応じた処遇の差異は、裁判所の適法な裁量権の行使に含まれる。したがって、公務員という属性や犯行の性質を考慮して執行猶予を付さなかった判断に、裁量権の逸脱や憲法違反は認められない。
結論
刑の執行猶予の可否は裁判所の広範な裁量に委ねられており、本件のように犯情を考慮して執行猶予を付さなかったとしても、憲法14条違反には当たらない。
実務上の射程
量刑不当を憲法違反として主張する際の上限を示す判例である。執行猶予が裁量事項であることを強調しており、答案上では、刑法25条の「できる」という文言の解釈や、量刑の妥当性、憲法14条の不合理な差別の有無を論じる際の論拠として使用できる。
事件番号: 昭和31(あ)3746 / 裁判年月日: 昭和32年4月25日 / 結論: 棄却
量刑の当否を判断するにあたり、犯罪が前刑の執行猶予期間内に犯されたことを情状として考慮することは、違法ではない。
事件番号: 昭和25(あ)501 / 裁判年月日: 昭和25年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行を猶予しないことが人種、信条、性別、社会的身分又は門地による差別に基づかない限り、憲法14条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件において有罪判決を受けた際、裁判所が刑の執行を猶予しないとの判断を下した。これに対し弁護人は、執行を猶予しなかったことが不当な差別にあたり、憲法…
事件番号: 昭和24(れ)779 / 裁判年月日: 昭和24年6月25日 / 結論: 棄却
新刑訴法第四一一條の規定は、上告理由として認められたものではなく、上告裁判所の職權事項として規定せられた趣旨のものと解すべきことは、既に當裁判所の見解とするところである。(昭和二三年(れ)第一五七七號、昭和二四年五月一八日大法廷判決)