一 論旨は、原判決が原審相被告人に對しては單純賭博罪として罰金刑を科したに止るに拘らず被告人に對して体刑を科したのは憲法第一四條及び第三七條に違反する。と主張するけれども犯情の類似した犯人間の處罰に差異であるからとて憲法第一四條に違反するものではないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第四三五號。同年一〇月六日言渡大法廷判決) 二 原審公判調書には裁判長が所論の嘆願書三通その他の書類を陪席判事と共に閲覽し、これを「本件に編綴する旨を告げ」たと記載されているにも拘らず、右の嘆願書が記録に編綴されていないこと所論の通りである。しかし公判調書には裁判長が右の旨を告げたという事實が記載されているのであつて、嘆願書を編綴したという事實は記載されているのではないから、これを以て公判調書の記載が虚僞であるということはできない。 唯裁判長の右の言葉は實行されていないけれどもこれをもつて違法ということはできない。蓋し右の嘆願書は元來證據書類でなくて参考書類に過ぎないものであるのみならず、假りにこれを證據書類としても右の記載によつて證據調の終了したことが認められる。さればこれを記録に編綴しないからとて所論のように判決に影響を及ぼすことでもなく辯護人の正當な辯護權を不當に蹂躙することにもならないからである。
一 犯情の類似した被告人間の科刑の差異と憲法第一四條 二 公判廷において裁判長が嘆願書を記録に編綴すると告げながら編綴の事實がない場合と上告理由
憲法14條,憲法37條,舊刑訴法60條2項11號
判旨
憲法14条の法の下の平等は、犯情の類似した犯人間で処罰に差異が生じることを直ちに禁ずるものではなく、また憲法37条1項の「公平な裁判所」とは偏頗や不公平のおそれのない組織・構成を指し、個々の不利益な裁判を直ちに違憲とするものではない。
問題の所在(論点)
1. 犯情の類似した共犯者間で量刑に差異が生じることは、憲法14条(平等原則)に反するか。2. 特定の被告人に不利益な裁判がなされることは、憲法37条1項(公平な裁判所の裁判を受ける権利)に反するか。
規範
1. 憲法14条の平等原則について、犯情の類似した犯人間において処罰に差異が生じたとしても、そのことのみをもって同条に違反するものではない。2. 憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成を持った裁判所による裁判を意味し、個々の事件において被告人に不利益な裁判がなされたとしても、それが直ちに同項にいう不公平な裁判にあたるものではない。
重要事実
被告人Aは、賭博の前科4犯を有していた。最終受刑からわずか5、6か月後にさらに2回の賭博を行ったため、常習性が認定された。原審は、共犯者Bに対しては単純賭博罪として罰金刑を科したが、被告人Aに対しては常習性を認め実刑を科した。これに対し被告人は、共犯者との処罰の差異が憲法14条および37条1項に違反すると主張して上告した。また、記録上の嘆願書が編綴されていない手続上の違法も併せて主張された。
あてはめ
1. 被告人Aには賭博の前科が4回あり、前科の刑の執行から短期間で再犯に及んでいる。このような事実に照らせば、常習性の認定は経験則に反せず正当である。共犯者Bと処罰の差異があるとしても、個別の犯情(前科、再犯期間等)に基づき適正な裁量が行われている限り、平等原則違反にはならない。2. 憲法37条1項は裁判所の制度的・組織的な中立性を保障するものであり、実体判断において被告人に不利な結論が出たとしても、裁判所の構成自体に偏頗の恐れがない以上、同条違反の問題は生じない。3. 手続面についても、嘆願書は参考書類に過ぎず、証拠調べの手続が経られている以上、記録への編綴漏れは判決に影響を及ぼす違法ではない。
結論
共犯者間での量刑の差異や、特定の被告人に対する不利益な判断は、裁判所の組織的構成に問題がない限り、憲法14条および37条1項に違反しない。
実務上の射程
量刑不当や憲法違反を主張する際のリファレンスとして機能する。特に憲法37条1項の「公平な裁判所」の意義を「組織・構成」に限定する解釈は、裁判官の忌避や裁判の公開を論ずる際の規範として現在も定着している。
事件番号: 昭和28(あ)1594 / 裁判年月日: 昭和29年12月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】常習賭博罪(刑法186条1項)の規定は、憲法14条の法の下の平等に違反しない。賭博の常習性という累犯的性質に着目して重罰を科すことは、立法府の裁量範囲内であり合理的な差別として許容される。 第1 事案の概要:被告人は常習として賭博を行ったとして、刑法186条1項(常習賭博罪)に基づき起訴された。こ…