一 事實審裁判所が、罪となるべき事實ばかりでなく犯情に關しても亦その取調をしなければならないことは所論の通りであるが、その取調は量刑等の關係上必要な限度においてなせば足るものといわなければならない。(昭和二三年(れ)五七號、同年四月二四日第二小法廷判決判例集第二巻四號四二四頁参照) 二 原審が主として執行猶豫の言渡を得る目的で犯情立證のためになされた所論證人申請を却下したのは、結局事實審として必要な證據調の限度を決定し得べき職權を行使したものに過ぎないのである。なお憲法第三七條第二項の規定が事案の判斷上必要でない關係人までも、これを證人として被告人に審問の機會を與へなければならなとする趣旨のものでないことは、既に當裁判所大法廷の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第二五三號、同二三年七月一日判決。昭和二三年(れ)第二三〇號、同年七月二九日判決参照)
一 犯情についての取調べの限度 二 執行猶豫の言渡を得る目的でなされた證人申請の却下と憲法第三七條第二項
舊刑訴法338條1項,舊刑訴法338條,憲法37條2項,刑法25條
判旨
事実審裁判所は、犯情の取調べを量刑等の関係上必要な限度で行えば足り、不要と判断される証拠申請を職権で却下できる。また、憲法37条2項は、事案の判断に不要な関係人まで証人として尋問する機会を保障するものではない。
問題の所在(論点)
事実審裁判所において、犯情に関する証拠申請を必要なしとして却下することが許されるか。また、かかる却下が憲法37条2項(証人尋問権)に抵触しないか。
規範
事実審裁判所は、罪となるべき事実のみならず犯情についても取調べを行うべきであるが、その範囲は量刑等の判断に必要な限度に留まる。具体的状況に照らし、既に十分な心証を得るなどして取調べの必要がないと認められる証拠については、裁判所の職権により却下することが認められる。また、執行猶予の言渡しの有無は裁判所の自由裁量に属する事項である。
重要事実
被告人の弁護人は、控訴審の第五回公判において、被告人の性質、素行、学校の成績等を立証するために証人2名の尋問を申請した。これに対し、原審(控訴審)は、既に被告人の経歴、資産、収入、家庭の事情といった犯情に関する取調べを実施しており、当該証人申請については「必要なし」として却下した上で、執行猶予を付さない判決を言い渡した。被告人側は、証人申請の却下は違法であり、憲法37条2項にも反すると主張して上告した。
あてはめ
原審は、被告人の性質や素行等の立証を目的とした証人申請を却下したが、既に経歴や資産、家庭環境等の犯情について十分な取調べを行っていた。このことから、原審は立証事項について既に十分な心証を得ており、これ以上の取調べは不要と判断したものと解される。これは事実審として必要な証拠調べの限度を決定する職権の適正な行使である。また、執行猶予を付さなかった判断も諸般の情状を斟酌した裁量の範囲内であり、実験則に反する違法はない。
結論
原審の証拠却下は適法であり、憲法37条2項にも違反しない。執行猶予の付与を含め、量刑判断に関する原審の職権行使に違法はないため、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法における裁判所の証拠決定権限の範囲を確認した判例である。特に「犯情」に関する証拠調べの必要性と、裁判所による証拠却下の裁量を肯定する文脈で活用できる。憲法上の証人尋問権との関係でも、必要性のない証人にまで及ばないという限界を示した点で重要である。
事件番号: 昭和24(れ)826 / 裁判年月日: 昭和24年7月2日 / 結論: 棄却
しかし、憲法第三七條第二項は、裁判所が必要適切と認めて喚問を許容した證人に限る規定であることは、當裁判所理屡次の判例とするところである。