一 上告論旨第一點について記録を調べて見ると、證人A並びに同Bに對する各豫審訊問調書中の各供述記載によれば、Cの診断はA醫師自身がしたものでなく、B醫師にさせたものであつて、A醫師は富山市D病院の外科主任として責任者たる地位にある關係上所論診斷書は同人の作成名義としたものであることは所論の通りである。しかしCが右D病院で外科部のB醫師の診斷を受けたとしても、それは同病院外科部主任A醫師の指揮監督の下に、外科部の構成員たるB醫師が外科部のために現實に外科的仕事をしたに過ぎないものであつて、責任者が必要に應じ自ら手術をし又その部下をして手術せしめることは通常あり勝ちである。後者の場合でも對外的には外科部の責任者である外科部主任が診斷したと見るのを相當とする。従つて診断書も責任者名義をもつて作成するのは社會通念から見ても國民醫療法第一〇條第一項の趣旨に適合するものである。果して然らば本件においてCを診斷したものはD病院外科主任Aであつて、Cの診斷書を右A名義に作成したのは正當である。 二 被告人Eが原審公廷で「昭和一八年二月二三日富山區裁判所において窃盜罪に依り懲役六月に、昭和二〇年四月一七日同區裁判所において略式命令を以て國家總動員法違反並びに屠場法違反罪により懲役四月に處せられました」と供述した趣旨は特に反對に解すべき供述がない限り、その執行を終つたものである趣旨であることは經驗則上明らかである。
一 現實には部員をして診斷せしめた病院の外科部主任名義の診斷書と國民醫療法第一〇條第一項の趣旨 二 「刑に處せられた」という供述の趣旨とその執行終了の認定
國民醫療法10條1項,醫師法20條,舊刑訴法337條,刑法12條,刑法56條
判旨
病院の外科主任の指揮監督下で部下医師が診察を行った場合、対外的には責任者である外科主任が自ら診察したものと解するのが相当であり、当該主任名義で作成された診断書は正当な証拠となる。
問題の所在(論点)
部下医師が実際の診察を行った場合に、指揮監督権者である上司の医師名義で診断書を作成することが適法か。また、その診断書を証拠として採用することが許されるか。
規範
病院等の組織的医療体制下において、部門の責任者がその指揮監督下にある部下医師に実際の診察を行わせた場合であっても、その診察は責任者の指揮に基づく組織の職務遂行としてなされたものといえる。したがって、対外的には部門責任者が自ら診察したものと同視でき、当該責任者名義で診断書を作成することは、当時の国民医療法(現行の医師法等に相当)の趣旨にも適合し、適法かつ有効な証拠となり得る。
重要事実
被告人の刑事事件において、検察側から提出されたCに対する診断書は、富山市D病院の外科主任A医師名義で作成されていた。しかし、実際にはA医師自身がCを診察したのではなく、その部下である外科部のB医師が診察・診断を行っていた。弁護人は、A医師自身が診察していない以上、当該診断書は虚偽の証拠であり、これに基づき事実認定をした原判決には違法があると主張して上告した。
あてはめ
本件において、B医師はD病院外科部の構成員として、外科主任Aの指揮監督下で外科的職務を遂行している。責任者が自ら、または部下をして手術や診療を行わせることは医療現場の通常の実態である。この場合、対外的には外科部の責任者であるAが診断したものと見るのが社会通念上相当である。したがって、本件診断書をA名義で作成したことは、当時の国民医療法10条1項の趣旨に適合し、正当な手続を経て作成されたものといえる。ゆえに、原審が本件診断書を証拠として採用したことに違法はない。
結論
部下の診察に基づき責任者名義で作成された診断書は正当なものであり、証拠能力を有する。原判決に証拠法則の違反はない。
実務上の射程
医師法20条の「自ら診察しないで」の禁止規定に関わる判断指針となる。大学病院や大病院の診療科において、チーム医療の一環として主任教授や科長の名義で書類を作成する実務の正当性を支える判例である。ただし、責任者の実質的な指揮監督が及んでいない場合には射程外となる可能性がある点に注意を要する。
事件番号: 昭和24(れ)1235 / 裁判年月日: 昭和24年11月22日 / 結論: 破棄差戻
一 記録を調べて見ると、被告人の原審辯護人Aは、昭和二三年一二月二日の原審公判において醫師Bの證人訊問を請求したところ原審は、昭和二四年一月一八日の公判において、留保にかゝる右證人訊問の請求を却下する決定を言渡しながら、原判決において被害者Cに對する傷害の部位程度を認定するにつき、醫師Bの診斷書を證據として引用している…
事件番号: 昭和26(あ)1702 / 裁判年月日: 昭和27年11月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官の嘱託に基づき、裁判官の発した鑑定処分許可状を得て作成された死体鑑定書は、適法な鑑定手続によるものとして証拠能力を有する。 第1 事案の概要:検察事務官の請求により裁判官が発した鑑定処分許可状に基づき、検察官の嘱託を受けた医師Aが、被害者Bの死体を解剖して鑑定書を作成した。公判において検察官…