一 記録を調べて見ると、被告人の原審辯護人Aは、昭和二三年一二月二日の原審公判において醫師Bの證人訊問を請求したところ原審は、昭和二四年一月一八日の公判において、留保にかゝる右證人訊問の請求を却下する決定を言渡しながら、原判決において被害者Cに對する傷害の部位程度を認定するにつき、醫師Bの診斷書を證據として引用していること明らかである。醫師が過去において診察した被害者の傷害の部位程度を記載した診斷書は、刑訴應急措置法第一二條第一項に規定する證人その他の者の供述を録取した書類に代わるべき書類に當ることはいうまでもないところである。 二 記録によると、醫師Bは、高山市に開業していることが明らかであるから、同人を原審の所在地名古屋市に喚問することは醫師の業務に相當の影響を及ぼすことは勿論であるが、それだからといつて、刑訴應急措置法第一二條第一項但書にいう作成者を公判期日において訊問する機會を被告人に「與えることができず、又は若しく困難な場合」に當ると認めることができない。
一 刑訴應急措置法第一二條第一項違反の一場合 二 刑訴應急措置法第一二條第一項違反の一場合
刑訴應急措置法12條1項
判旨
被告人又は弁護人が証人訊問を請求した場合には、その作成者を公判期日に訊問する機会を与えない限り、診断書を証拠とすることはできない。また、遠隔地に居住しているという事実のみでは、訊問が「著しく困難」な場合には該当しない。
問題の所在(論点)
被告人側が作成者の訊問を請求した場合において、当該訊問の機会を与えずに診断書を証拠とすることが許されるか。また、医師が遠隔地で開業していることは「訊問の機会を与えることが著しく困難な場合」にあたるか。
規範
被告人(弁護人を含む)が作成者の訊問を請求したときは、作成者を公判期日に訊問する機会を与えない限り、供述に代わる書面を証拠とすることはできない。ただし、作成者を公判期日に訊問する機会を与えることができず、又は著しく困難な場合には、例外的に証拠能力が認められる。
重要事実
被告人の弁護人は、被害者の傷害部位・程度を立証するための証拠として引用された医師Bの診断書に関し、作成者であるBの証人訊問を請求した。しかし、原審は当該請求を却下した上で、Bを訊問することなく診断書を証拠として採用し、傷害の事実を認定した。なお、医師Bは高山市で開業しており、原審所在地である名古屋市から離れた場所に居住していた。
あてはめ
本件では弁護人が医師Bの訊問を請求しているため、原則としてBを訊問する機会を被告人に与えなければならない。医師Bが高山市に居住し、名古屋市の裁判所に出頭させることが医師の業務に影響を及ぼすとしても、その事実のみをもって訊問の機会を与えることが「著しく困難」であるとは認められない。したがって、本件は例外要件を充足せず、訊問なしに診断書を証拠採用した原審の判断は違法である。
結論
原判決を破棄し、名古屋高等裁判所に差し戻す。被告人に訊問の機会を与えずになされた診断書の証拠採用は、刑事訴訟応急措置法12条1項に違反する。
実務上の射程
現行の刑事訴訟法321条1項3号等の伝聞例外における「供述不能」要件の判断、あるいは323条等の書面の証拠能力が争われる場面において、証人出頭の困難性と被告人の反対尋問権の保障を衡量する際の参考となる。
事件番号: 昭和23(れ)134 / 裁判年月日: 昭和23年5月22日 / 結論: 棄却
證人の豫審訊問調書は被告人の請求があるときはその供述者を公判期日に訊問する機曾を被告人に與えなければこれを證據とすることができないのであるから、その訊問の機曾を被告人に與えさへすれば現にこれを公判廷で訊問しなくともその調書を證據とすることができると解すべきである。