一 傷害被告事件において、被害者から捜査官憲に提出され記録に編綴してある被害創傷に関する医師の診断書は、旧刑訴第三四〇条にいわゆる調拠書類にあたる。 二 舊刑事訴訟法にいわゆる證據物と證據書類との相違は、前者に於てはその物理的存在自體が問題であるのに對して、後者に於てはその存在は明白であり、唯その記載内容が犯罪事實の證明に役立つという點に存すること所論の通りである。大審院の判例は、證據書類とは當該訴訟に關し作成せられ證據の用に供せられる書面を指稱するものである。との解釋を維持して來たが(例へば昭和七年二月一八日判決集一一巻八四頁)、かような文書はその存在及び成立については特別の場合を除く外全く疑を生ぜず唯その記載の内容のみが證據となるのであるからこの解釋も結果に於ては上記の見解に背馳するものではない。從つて右の判例は、舊刑事訴訟法の解釋に關する限り、新憲法の下に於ても、これを變改する必要を認めない。
一 被害者提出の診断書と証拠書類 二 證據書類の意義及び證據物との相違
旧刑訴法340条,旧刑訴法341条,舊刑訴法340條,舊刑訴法341條
判旨
証拠物と証拠書類の区別は、その物理的存在自体が問題となるか、記載内容が証明に供されるかによって決まる。本件診断書は記載内容が証拠とされたものであり、証拠書類に該当するため、展示手続を欠いても手続違法ではない。
問題の所在(論点)
旧刑事訴訟法(および現行法にも通じる解釈として)において、医師の診断書のように訴訟手続に関連して作成された文書が「証拠物」と「証拠書類」のいずれに該当するか。また、証拠書類である場合に、証拠物としての展示手続を要するか。
規範
証拠物とは、その物理的存在(形状・性質等)自体が証拠となるものを指す。これに対し、証拠書類とは、その存在や成立が明白であり、その記載内容が犯罪事実の証明に役立てられるものを指す。当該訴訟に関して作成され、証拠の用に供するために提出された文書で、内容のみが証拠となるものは証拠書類に当たる。
重要事実
被告人に対する傷害事件において、医師A作成の診断書が証拠として採用された。この診断書は、被害者が被告人から受けた傷害の部位や程度を報告するために作成され、捜査機関に提出されて記録に編綴されたものである。一審および原審の手続において、当該文書の成立について争われた形跡はなく、その記載内容が事実認定の基礎とされた。弁護人は、これが証拠物であるにもかかわらず、裁判長が被告人に展示しなかったことは手続違反であると主張して上告した。
あてはめ
本件の診断書は、被害者の傷害状況を報告する目的で作成・提出されたものであり、その存在自体や成立の真正が争点となったわけではない。あくまで記載された内容が傷害事実の証明のために引用されている。このように、物理的性状ではなく記載内容が証拠としての価値を持つ文書は、実質的に証拠書類としての性質を有する。したがって、証拠物に対する証拠調べ手続(展示)を行う必要はなく、内容を周知させる手続(朗読等)で足りるため、展示を欠いたとしても旧法341条1項(現行法305条等参照)に違反するものではない。
結論
本件診断書は証拠書類に該当し、証拠物としての展示手続を要しない。したがって、原審の手続に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
証拠書類と証拠物の区別に関する古典的なリーディングケースである。答案上では、文書の二面性(内容を証拠とするか、存在自体を証拠とするか)を論じる際の規範として活用できる。特に診断書や供述録取書など、内容が重要なものは「証拠書類」として構成し、凶器に付着した血痕の配置や偽造文書の筆跡など、外形が重要なものは「証拠物」として扱うという基準を明示する際に有用である。
事件番号: 昭和24(れ)1235 / 裁判年月日: 昭和24年11月22日 / 結論: 破棄差戻
一 記録を調べて見ると、被告人の原審辯護人Aは、昭和二三年一二月二日の原審公判において醫師Bの證人訊問を請求したところ原審は、昭和二四年一月一八日の公判において、留保にかゝる右證人訊問の請求を却下する決定を言渡しながら、原判決において被害者Cに對する傷害の部位程度を認定するにつき、醫師Bの診斷書を證據として引用している…
事件番号: 昭和38(あ)989 / 裁判年月日: 昭和39年11月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】医師作成の診断書をその記載内容を証拠とする場合に証拠物として取り調べる手続は違法であるが、他の証拠により犯罪事実が認定可能であれば、判決に影響を及ぼさない。 第1 事案の概要:被告人が傷害の事実で起訴された事件において、第一審裁判所は、医師が作成した診断書を証拠として採用した。しかし、裁判所はその…