判旨
物価庁告示による統制額を超えた取引後に告示が改廃・廃止された場合でも、犯罪時の告示に従って処断すべきであり、法令による刑の変更や廃止(刑法6条等)には該当しない。また、証拠物である伝票を被告人に示して意見弁解を聞いた場合には、適法な証拠調べが行われたものと解される。
問題の所在(論点)
1. 統制額を定めた告示の改廃が「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」に該当するか。2. 書面に添付された証拠物(伝票)について、別途独立した証拠調べ手続を要するか、あるいは提示・訊問により適法といえるか。
規範
物価統制令に基づく価格制限の改廃は、事実上の変更であって法令の改廃(刑法6条、刑訴法337条2号等)には当たらないため、行為時の価格を基準に処断すべきである。また、書面に添付された証拠物については、公判廷において被告人に示し、その内容や作成経緯等について意見弁解を聞く手続を経ることで、適法な証拠調べがなされたと解する。
重要事実
被告人両名は、物価庁告示が定める統制額を超えてパンを取引したとして物価統制令違反で起訴された。第一審判決後、物価庁告示が改廃され、当該統制額が廃止または改訂された。また、証拠調べにおいて、パンの伝票が「任意提出始末書」という書面に添付された状態で提出され、裁判長は被告人Bに対し、当該伝票上の印影の真否を問い、意見弁解を聞く手続を行った。被告人側は、法令の変更による刑の廃止および証拠調べの不備を理由に上告した。
あてはめ
1. 告示による価格指定は、その時々の経済状況に応じた事実上の措置であり、その後の改廃があったとしても、行為時点での違法性が失われるものではない。したがって、刑法6条等の「法令の変更」には該当せず、行為時の告示が適用される。2. 本件伝票は証拠物に該当するところ、原審公判において被告人Bに対し当該伝票を示した上で、印影の確認や弁解を聴取する手続がとられている。これは、実質的に証拠物の提示としての性質を備えており、適法な証拠調べを経たものと認められる。
結論
本件各上告を棄却する。告示の改廃は刑の変更・廃止に当たらず、また証拠物についても適法な証拠調べが行われたと認められる。
実務上の射程
告示や命令等の事実上の変更と法令の変更を区別する「限時法」的発想を示す重要判例。また、証拠物の証拠調べについて、厳格な形式よりも被告人への提示と弁解聴取という実質的保障を重視する判断枠組みとして、証拠法の論述において活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1474 / 裁判年月日: 昭和26年2月9日 / 結論: 棄却
昭和二一年一〇月二四日物価庁告示第一三七号が昭和二四年八月一五日限り廃止されたことは所論のとおりであるが、物価統制令第三条違反の行為があつた後に同令に基く統制額指定の告示が廃止されても旧刑訴第三六三条にいわゆる「犯罪後ノ法令ニ依リ刑ノ廃止アリタルトキ」に当らないことは当裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)…