被害者が錯誤に陥つた精神状態の認定をなすには必ず被害者の供述又は他の證據によらなければならないという理由はなく、加害者たる被告人の供述其他の證據によつてこれを認定したとしても採證法則に違背するものではない。
錯誤に陥つた被害者の精神状態の認定と採證の自由
舊刑訴法336條,舊刑訴法337條
判旨
詐欺罪における被害者の錯誤という精神状態の認定は、被害者本人の供述によらずとも、加害者の供述等の他の証拠によって認定することが可能である。
問題の所在(論点)
詐欺罪における被害者の錯誤という精神状態の認定において、被害者自身の供述等による直接の立証が不可欠か、それとも加害者の供述等の他の証拠による認定が可能か。
規範
詐欺罪(刑法246条)の成立要件である「錯誤」は、被害者の内心の精神状態であるが、その認定は自由心証主義に基づく証拠の取捨選択に委ねられる。したがって、法律に反しない限り、特定の証拠(被害者の直接供述等)を必須とするものではなく、被告人の供述やその他の間接証拠によっても、論理則・経験則に反しない限り事実認定を行うことができる。
重要事実
被告人が他人を欺罔して財物を交付させた詐欺被告事件において、原審は被害者の錯誤という事実を認定した。これに対し弁護側は、被害者が錯誤に陥ったことを認定するには被害者自身の供述や特定の証拠が必要であるにもかかわらず、それらによらずに事実を認定したことは採証法則に違背し、無証拠で事実を認定したものであるとして上告した。
あてはめ
詐欺罪の成立に必要な「錯誤」の認定について、旧刑事訴訟法下においても現行法同様に自由心証主義が採用されている。被害者が錯誤に陥ったという精神状態の認定をなす際、必ず被害者の供述又はこれに類する特定の証拠によらなければならないという法的制約は存在しない。本件では、被告人自身の供述やその他の証拠により、被告人の欺罔行為によって被害者が錯誤に陥り、その結果として財物の交付がなされたという一連の過程が推認されており、これをもって事実を認定することは適法である。
結論
詐欺罪における錯誤の認定に被害者の供述は必須ではなく、被告人の供述やその他の証拠によって認定することも許容される。
実務上の射程
実務上、被害者が死亡している場合や、記憶が判然としない場合であっても、被告人の供述や客観的な状況証拠から「錯誤」を推認できることを示した重要判例である。答案上では、被害者の供述が得られない事案において、自由心証主義を根拠に、他の証拠を積み重ねて錯誤を認定する際の理論的支柱として活用すべきである。
事件番号: 昭和24(れ)1288 / 裁判年月日: 昭和24年9月24日 / 結論: 棄却
盜難被害届中被害物件の數量の記載に、判示被害物件の數量と所論のような僅少の差異がありとしても、右盜難届の記載が判示犯罪事實に照應するものと認定する妨げとなるものではない。