一 公判請求書に詐欺の事實が記載されている以上、詐欺についても公訴か提起されたものであつて、罪名を記載洩れしたことは公訴提起の効力に影響するものではない。 二 舊刑訴法第四〇三條にいわゆる「原判決の刑より重い刑を言渡す」というのは判決注文における科刑を原判決にくらべて重くする意味であるから、被告人が控訴をした事件について第一審判決後被告人から所論のように被害者に被害の辨償をしたような事情があつても控訴裁判所は必ずしも第一審判決の刑より輕い刑を言渡さなければならないものではない。犯情その他諸般の事情によつて第一審判決と同一の刑を言渡すことができ又之を言渡しても前記舊刑訴第四〇三條に違反するものではない。(昭和二三年(れ)第七四八號同年一一月一六日第三小法廷判決參照) 三 刑訴應急措置法第一二條が憲法第三七條第二項に違反していないことは當裁判所の判例の示すところである。(昭和二三年(れ)第八三三號同二四年五月一八日大法廷判決参照)
一 罪名の記載漏れのある公判請求書と公訴提起の効力 二 第一審判決後被告人が被害を辨償した場合と不利益變更禁止の適用 三 刑訴應急措置法第一二條の合憲性
舊刑訴291條1項,舊刑訴288條,舊刑訴法403條,憲法37條2項
判旨
公判請求書に罪名の記載が漏れていても、公訴事実に当該事実が具体的に記載されているならば、公訴提起の効力は妨げられない。また、不利益変更禁止の原則における刑の重軽の比較は主文の科刑を基準とすべきであり、第一審後に示談等の有利な事情が生じても第一審と同一の刑を言い渡すことは許容される。
問題の所在(論点)
1. 公判請求書の罪名欄に記載がない犯罪事実について、公訴提起の効力が及ぶか。 2. 第一審判決後に被害弁償という被告人に有利な事情が生じた場合に、第一審と同一の刑を維持することは不利益変更禁止の原則に反するか。
規範
1. 公訴の提起(刑事訴訟法256条)について、罪名の記載に欠漏があっても、公訴事実に具体的な犯罪事実が記載されている限り、その事実について公訴の効力は及ぶ。 2. 不利益変更禁止の原則(刑事訴訟法402条)にいう「原判決の刑より重い刑」とは、判決主文における科刑を基準に判断すべきであり、第一審後の情状の変化のみをもって直ちに刑を減軽すべき義務を裁判所に課すものではない。
重要事実
被告人は強盗、窃盗、詐欺の事実で訴追されたが、公判請求書の「罪名」欄には詐欺の記載が漏れていた。しかし、公訴事実の項には詐欺の内容が明記されていた。第一審判決は詐欺の事実を認定したが法律の適条を遺脱し、被告人が控訴。控訴審において、被告人は第一審判決後に被害者への弁償(示談)を行った。原審(控訴審)は、詐欺の事実に基づき第一審と同一の刑を言い渡したため、被告人が不服として上告した。
あてはめ
1. 公判請求書の「第三」として詐欺の事実が具体的に記載されている以上、罪名の記載漏れは公訴提起の効力を左右するものではなく、詐欺についても有効に審判の対象となっている。 2. 不利益変更禁止の基準は判決主文の科刑にある。第一審後に被害弁償がなされたとしても、犯情その他諸般の事情に照らして第一審と同一の刑を言い渡すことは、第一審より重い刑を科したものとはいえず、同原則に違反しない。
結論
罪名記載の不備があっても公訴事実の記載により審判の対象は特定される。また、第一審後の有利な事情を考慮しても同一の刑を維持することは不利益変更にあたらず、原判決は正当である。
実務上の射程
公訴提起の有効性が争われる場面(256条)での「記載の有無」の判断基準として活用できる。また、不利益変更禁止(402条)の判断において「刑の重軽」は主文の科刑という形式的基準によることを示す実務上の重要判例である。
事件番号: 昭和25(れ)503 / 裁判年月日: 昭和25年7月11日 / 結論: 棄却
一 公判調書や判決書の冒頭に被告事件名を記載したり、裁判長が公判審理を開始するに當つて被告事件名を告知することは、審判される事件を簡明に表示するために行われている實例であるが、別段に訴訟法上の要請に基くものではなく、またこれによつて審判の對象は判決書においてはその理由中に明記され公判廷においては起訴状に記載された公訴事…
事件番号: 昭和24(れ)286 / 裁判年月日: 昭和24年6月16日 / 結論: 棄却
横領として起訴された事實を、裁判所が詐欺と認定しても、日時、場所、被害者金額等同一であつて審判上同一事實と見られる限り差支えのないものである。
事件番号: 昭和24(れ)1288 / 裁判年月日: 昭和24年9月24日 / 結論: 棄却
盜難被害届中被害物件の數量の記載に、判示被害物件の數量と所論のような僅少の差異がありとしても、右盜難届の記載が判示犯罪事實に照應するものと認定する妨げとなるものではない。