一 公判調書や判決書の冒頭に被告事件名を記載したり、裁判長が公判審理を開始するに當つて被告事件名を告知することは、審判される事件を簡明に表示するために行われている實例であるが、別段に訴訟法上の要請に基くものではなく、またこれによつて審判の對象は判決書においてはその理由中に明記され公判廷においては起訴状に記載された公訴事實と檢察官のする被告事件の陳述とによつて決定されるのである。それゆえ、被告事件名と審判の對象となつた事件とは必ずしも常に符合しなければならないものではなく、從つてこの點に過誤があつたとしても審判手續に違法があつたものと即斷することはできない。 二 記録によると、論旨採用のような診斷書があるし、原審第一回、第三回および第四回公判調書には被告人が病氣のため出頭しなかつた旨の記載があるから、常時被告人が病状にあつたことはこれを推認することができる。しかし、被告人は原審第六回公判期日には辯護人列席の上審判を受けたのであつて、同期日には被告人ならびに辯護人から公判審理に堪えない旨の申出もなく審理が行われているところから見ると、當時被告人が病状にあつたというだけのことで當日の公判廷における自白を目して強要された不利益な供述であるとか強制、拷問、脅迫による自白であるとか即斷することはできないし、またかかる事實が認められる證據は記録上少しも存しない。それゆえ、憲法第三八條違反の問題を生ずる余地がない。
一 公判廷及び公判調書等における被告事件名の告知及び記載の意義 二 病状にあつた被告人の公判廷の自由とその任意性
舊刑訴法134條,舊刑訴法345條,刑訴應急措置法10條1項2項,憲法38條1項2項
判旨
審判の対象となる事件の範囲は、起訴状記載の公訴事実と検察官の冒頭陳述によって決定され、公判調書等の被告事件名の記載に誤りがあっても直ちに違法とはならない。また、没収の言い渡しにあたっては、必ずしも没収対象物について証拠調べを行うことを要しない。
問題の所在(論点)
1. 公判調書や判決書における「被告事件名」の誤記載や告知の不備が、審判対象の特定を誤らせる違法となるか。2. 没収を言い渡すに際し、没収対象物自体の証拠調べが必要か。
規範
審判の対象(事件の範囲)は、判決書においては理由中に明記され、公判廷においては起訴状記載の公訴事実と検察官による被告事件の陳述(冒頭陳述)によって決定される。公判調書等の被告事件名の記載や告知は便宜上の慣行にすぎず、これによって審判対象が決定されるものではない。また、没収の対象物については、必ずしも犯罪事実認定のための証拠調べを行うことを要しない。
重要事実
被告人らは詐欺、恐喝等の罪で起訴され、第一審で有罪判決を受けた。控訴審の公判調書や判決書の冒頭における被告事件名の表示に関し、審判対象との不一致があるとして弁護人が訴訟手続の違法を主張した。また、没収された凶器(日本刀、拳銃等)について、原審が十分な証拠調べを行わずに没収を言い渡した点についても違法であると主張して上告した。
あてはめ
1. 本件記録によれば、原審の公判期日において検察官は第一審判決と同旨の公訴事実を陳述しており、原審はこれに基づき審判を行っている。被告事件名の表示に過誤があっても、実質的な審判対象は起訴状および陳述により特定されているため、審理手続に違法はない。2. 本件の凶器については、被告人や共犯者の供述により犯人以外の者に属しないことが認められる。原審では証拠品の提示も行われており、仮に独立した証拠調べがなされていなくとも、没収の言渡し自体に不備はない。
結論
本件各上告を棄却する。被告事件名の記載誤りは審判対象の決定に影響せず、没収にあたって対象物の厳格な証拠調べは必ずしも必要ではない。
実務上の射程
刑事訴訟法における審判対象の画定(公訴事実の特定)に関する基本原則を示す。答案上では、起訴状の記載や冒頭陳述が審判対象を決定する基準であることを論述する際に引用できる。また、没収手続における証拠調べの要否についての付随的論点としても活用可能である。
事件番号: 昭和25(あ)2121 / 裁判年月日: 昭和26年3月27日 / 結論: 棄却
所論の点はいずれも、原審において控訴趣意として主張されなかつた事項であり、また刑訴第三九二条二項は同条項所定の事由に関し控訴審に職権調査の義務を課したものではないから、原判決はこれらの点についてなんら判断を示していないのである。従つてこのような事項につき、単純に原判決の法令違反を主張することはもちろん、これを判例違反と…