原判決の法律の適用を調査すると、被告人Aの判示、第一の塩酸ヂアセチルモルヒネ販売の所為、第二の麻薬の所持の所為について、原判決は、犯罪後に法律による刑の変更があつたものとして刑法第六条第一〇条を適用している。しかし、判示昭和二〇年厚生省令第四四号及び麻薬規則は共に昭和二三年七月一〇日麻薬取締法第六五条により廃止せられたのであるが、同法第七四条には右法令廃止前にした行為に対する罰則の適用については、右各法令はその廃止後も、尚、効力を有する旨規定されているのであつて、判示第一、第二の各所為に対しては、いずれも当然にその行為時のい法令が適用せられ、新法はその適用を排除されるものであるから、原判決が新旧法令の比照をしたことは誤りといわなければならない。
「某法令廃止前にした行為に対する罰則の適用については右法令はその後廃止後もなお効力を有す」との規定の刑法第六条
刑法6条,刑法10条,麻薬取締法65条,麻薬取締法74条
判旨
憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」とは、不必要な苦痛を伴うなど人道上の観点から残虐と認められる刑罰を指す。裁判所が法定刑の範囲内で量刑を判断し、実刑を科すことはこれに該当しない。
問題の所在(論点)
裁判所が法律の範囲内で実刑を科すことが、憲法36条の「残虐な刑罰」に該当するか。また、法改正時に経過規定(罰則の適用については旧法が効力を有する旨の規定)がある場合、刑法6条に基づき新旧法の比較を行う必要があるか。
規範
憲法36条にいう「残虐な刑罰」とは、人道上の見地から残虐であると認められる刑罰の種類や態様を意味する。裁判所が法律の規定する範囲内で、通常の刑を量定する(量刑を行う)ことは、それ自体が直ちに「残虐な刑罰」に当たるものではない。
重要事実
被告人AおよびBは、塩酸ジアセチルモルヒネの販売および麻薬所持の罪に問われた。弁護人は、被告人らに前科がなく、犯情に汲むべき事情があるにもかかわらず、原審が実刑を科したのは憲法36条が禁じる「残虐な刑罰」に該当し違憲であると主張して上告した。また、行為後の法改正に伴い、新旧法の適用関係および条文適用の誤りが問題となった。
事件番号: 昭和25(れ)1797 / 裁判年月日: 昭和26年4月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法36条が禁じる「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的・肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を指す。法定刑の範囲内での実刑判決は、被告人にとって過重であっても直ちに同条に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人Aは、特定の犯罪(詳細は判決文からは不明)について起訴され、事実審であ…
あてはめ
憲法36条について、実刑判決は法律が許容する範囲内の刑の量定であり、人道上残虐と認められる刑罰には当たらない。また、本件の麻薬取締法改正(昭和23年)においては、同法74条に「廃止前の行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」旨の経過規定が存在する。この場合、行為時の法令が当然に適用され、新法との比較(刑法6条の適用)は排除されるべきである。原審には新旧法比照の誤りや条文適用の誤記(58条を57条とすべき)があったが、結論として旧法に従い処断しているため、主文に影響を及ぼす誤りとはいえない。
結論
法定刑の範囲内での量刑は憲法36条に違反しない。また、経過規定により旧法が適用されるべき事案において、原審の法令適用に一部誤りがあったとしても、実質的に旧法に従い処断されている以上、判決に影響はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
憲法36条の「残虐な刑罰」の定義を引用する際の基礎判例。死刑制度の合憲性や、特別法上の重い法定刑が争点となる場面で、判断枠組みの前提として示される。また、刑罰の不遡及・経過措置に関する解釈において、経過規定がある場合の刑法6条の適用の要否を確認する際にも参照される。
事件番号: 昭和26(あ)1262 / 裁判年月日: 昭和27年10月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法36条が禁ずる「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を指す。法律で許容された範囲内での量刑や、被告人にとって過重な刑であることのみをもって直ちに残虐な刑罰には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が犯した具体的な犯罪事実や下された宣告刑の詳細は本判…
事件番号: 昭和25(あ)1736 / 裁判年月日: 昭和26年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的・肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を指す。法律の範囲内で量定された通常の刑は、被告人にとって重いとしても直ちにこれに当たらない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件により起訴され、第一審裁判所が諸般の事情を考慮した上で、法律が定…
事件番号: 昭和28(あ)3180 / 裁判年月日: 昭和30年5月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律で許容された範囲内において事実審裁判所が量定した通常の刑罰は、憲法36条が禁じる「残虐な刑罰」には該当しない。 第1 事案の概要:上告人は、事実審において言い渡された刑罰が重すぎるとして、これが憲法36条で禁止される「残虐な刑罰」に該当し、憲法違反であると主張して上告した。 第2 問題の所在(…
事件番号: 昭和25(あ)3246 / 裁判年月日: 昭和26年12月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が裁量権に基づき法定刑の範囲内で実刑を科し、執行猶予を付さなかったことは、直ちに憲法36条の禁止する残虐な刑に当たらない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件において有罪判決を受けた際、裁判所は法定刑の範囲内で実刑を科し、執行猶予の言い渡しを行わなかった。これに対し、被告人側は、執行猶予を付…