辯護人は、論旨において被害者A方は氷屋であつて被告人はふだん氣易く同人方に出入し、同家奥の間は氷水を飲むときにも便所へ行くときにも通つたりしていたので、被告人が奥の間に這入るについては右Aの承諾を豫想していたのであると主張する。しかし右のような事柄について承諾が豫想されるからといつて、直ちに強姦の目的で侵入することの承諾までが豫想されるものと推論し得ないことはいうまでもない。現に、現判決が證據として舉げているAの供述によれば、同女はそれを承認するどころか反つてそれを拒否したのであることが明らかである。すでに、Aにおいて被告人の右奥の間における強姦の行爲の承諾が豫想されない以上、同女が被告人に對して退去を要求したと否とにかゝわらず被告人が同女の意思に反して奥の間に入つたものといふことができるのであるから、原判決が所論の證據から原判示の住居侵入の事實を認定したことについては所論のような違法はない。
住居侵入罪と被害者の承諾
刑法130條
判旨
住居侵入罪の成否において、特定の目的(強姦等)での立ち入りに対する居住者の承諾が予想されない以上、たとえ普段から出入りが許されている者であっても、居住者の意思に反する侵入にあたる。
問題の所在(論点)
普段から出入りが許容されている者が、住居権者の予期しない犯罪目的で立ち入った場合、刑法130条前段の「侵入」にあたるか。
規範
住居侵入罪(刑法130条前段)における「侵入」とは、住居権者の意思に反する立ち入りをいう。たとえ形式的な立ち入り許可が推認される状況であっても、真の目的が住居権者の意思を害するものである場合には、当該目的での立ち入りに対する承諾は否定される。
重要事実
被告人は、被害者Aが経営する氷屋に普段から気安く出入りしており、氷水を飲む際や便所に行く際に奥の間を通ることもあった。被告人はある日、強姦の目的でA方の奥の間に這入った。弁護側は、普段の出入り状況からAの承諾が予想されていたと主張した。
あてはめ
被告人は普段からA方に出入りしていたが、それは氷水の提供や便所の利用といった日常的な事柄に限られる。強姦という犯罪目的での立ち入りについてまで、住居権者Aの承諾が予想されると推論することはできない。現にAは被告人の行為を拒否しており、退去要求の有無にかかわらず、被告人はAの意思に反して奥の間に入ったものといえる。
結論
被告人の行為は住居権者の意思に反する「侵入」にあたり、住居侵入罪が成立する。
実務上の射程
真の立ち入り目的が犯罪遂行にある場合、形式的な承諾の有無にかかわらず、住居権者の主観的・合理的推定的意思に反するとして住居侵入罪の成立を肯定する実務上の有力な根拠となる判例である。
事件番号: 昭和28(あ)19 / 裁判年月日: 昭和28年5月14日 / 結論: 棄却
住居侵入罪については居住者または看守者が法律上正当の権限をもつて居住しまたは看守するかは犯罪の成立を左右するものでない。
事件番号: 昭和24(れ)1101 / 裁判年月日: 昭和24年7月22日 / 結論: 棄却
犯人が「今晩は」とは挨拶したのに對し、家人が「おはいり」と答へたのに應じて住居にはいつた場合でも、犯人が強盜の意圖でその住居にはいつた以上、住居侵入罪が成立する。