認定事実と証拠との間に理由不備の違法ある第一審判決(強姦の犯意が、挙示の証拠によつては認められない場合)を指示した第二審判決は法令の解釈適用を誤つた違法あるに帰し、刑訴第四一一条第一号により破棄することができる
刑訴法第四一一条第一号にあたる事例。―理由不備―
刑訴法411条1号
判旨
強姦の犯意を認定するためには、被告人の当時の言動や周囲の状況が経験則に照らして合理的でなければならず、不可解な暴行態様がある場合には、単に他者の不在や面識の有無等から直ちに犯意を推認することはできない。
問題の所在(論点)
住居侵入および激しい暴行の事実がある状況において、強姦の犯意(性的自由を侵害する意思)を証拠に基づき認定できるか。特に、実行行為の態様が犯意の推認を妨げる場合にどう判断すべきか。
規範
特定の犯罪(強姦)の犯意(実行の着手を含む)を認定するには、客観的な実行行為の態様がその犯意の遂行として経験則上自然なものであることが必要である。動機となり得る間接事実が存在しても、犯行時の具体的状況がその犯意と矛盾する場合には、証拠に基づかない事実認定(理由不備・経験則違反)となる。
重要事実
被告人は飲酒酩酊後、同僚が不在の教員住宅に住むその妻(被害者)を姦淫しようと考え、野球ユニホームを着てタオルを頭に巻き、野球バットを持って侵入した。被告人は就寝中の被害者の布団に乗りかかり、目を覚ました被害者の頭部等をバットで数回乱打して負傷させたが、姦淫には至らなかった。原審はこれを強姦致傷罪の未遂と認定した。
あてはめ
被告人は、強姦の意思があったとされるにもかかわらず、長靴を履いたまま布団に乗りかかり、被害者が目覚めるや否や、直ちに野球バットで頭部を乱打するという、性的予備行為としては極めて不自然かつ強烈な暴行に及んでいる。このような「いきなりバットで乱打する」行為は、特段の事情がない限り、経験則上、強姦の犯意を遂行する一環としては受け入れがたい。同僚が不在であることや平素の怨恨の欠如という間接事実のみでは、この不可解な暴行態様を排して強姦の犯意を推認するに足りない。
結論
被告人に強姦の犯意があったと認定するに足りる証拠はなく、原判決は事実認定において理由不備・経験則違反の違法があるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
実行の着手における「密接性」や「犯意」の認定において、犯行態様が犯罪類型本来の性質と著しく乖離している場合(過剰な暴力等)、構成要件的故意を否定し、より軽い罪(傷害罪等)への限定を検討する際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和43(あ)932 / 裁判年月日: 昭和43年9月17日 / 結論: 棄却
婦女に対する姦淫行為自体によりその婦女に傷害を負わせた場合ばかりでなく、姦淫の手段である暴行によつて傷害を負わせた場合でも、刑法第一八一条の強姦致傷罪が成立する。