原審における昭和二四年五月九日の第四回公判調書を見ると被告人の原審辯護人が、本件各事實について被告人に強盜の犯意がなく又共謀の點についてもその證明が不十分である旨の辯論をしていることは洵に所論の通りである。然も右辯論の趣旨は、單に犯意並びに共謀の事實を否認するに過ぎないのであつて、かゝる辯論が舊刑訴法第三六〇條第二項に規定する法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事實上の主張に該當しないことは既に判例(昭和二三年(れ)第一五八五號昭和二四年三月二二日第三小法定判決)が示しているところである。従つて原判決が之に對する判斷を示さなかつたことは當然この點の論旨も亦理由がない。
強盜の犯意がなく、共謀の點についても證明不充分であるという主張と、舊刑訴法第三六〇條第二項
刑法38條,刑法60條,刑法236條,舊刑訴法360條2項
判旨
単に犯意や共謀の事実を否認する主張は、刑事訴訟法上の「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」には該当せず、裁判所はこれに対して個別の判断を示す必要はない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法(旧法360条2項、現行法335条2項参照)において、判決に理由を付すべき「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」に、主観的要件(犯意や共謀)を否認する主張が含まれるか。
規範
「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実」とは、正当防衛や緊急避難、心神喪失といった、構成要件に該当する行為の違法性や有責性を排斥する事由を指す。したがって、犯罪の主観的要件(犯意や共謀)の存在を単に否定する主張は、証拠によって認定されるべき事実の存否を争うものに過ぎず、判決において個別に排斥の理由を示すべき対象とはならない。
重要事実
被告人および相被告人らによる強盗および強盗予備の事実につき、原審の弁論において被告人の弁護人は、被告人には強盗の犯意がなく、また共謀の事実についても証明が不十分である旨を主張した。しかし、原判決はこれらの主張に対し、個別の判断(排斥の理由)を明示することなく有罪を言い渡した。これを不服として、被告人側が判断不尽の違法を理由に上告した事案である。
あてはめ
本件における弁護人の主張は、被告人に強盗の犯意がないこと、および共謀が成立していないことを主張するものである。これらは、犯罪を構成する要素(構成要件該当性)そのものの存否を争う事由である。このような「事実の否認」は、法律上の「犯罪の成立を阻却すべき原由」(違法性阻却事由や責任阻却事由)には当たらない。したがって、裁判所が有罪判決において、証拠に基づき犯意や共謀を認定した以上、それと両立しない否認の主張を別途論理的に排斥するプロセスを理由中に記述する必要はない。
結論
犯意や共謀の否認は、法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張に該当しない。したがって、原判決がこれに判断を示さなかったことに違法はなく、上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
判決書の「理由」の記載範囲に関する重要判例である。現行刑事訴訟法335条2項の「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実」の解釈においても同様の枠組みが維持されている。実務上・答案上は、アリバイ主張や故意の否認が「事実の否認」に過ぎず、個別判断が不要な類型であることを論証する際に引用する。
事件番号: 昭和24(れ)2146 / 裁判年月日: 昭和24年12月26日 / 結論: 棄却
原判決中の「その證據は原判決に摘示するところとすべて同一であるからこゝにこれを引用する」という語句は、稍々正確を欠く憾みがないではない。しかしそれは、本來ならば第一審判決に摘示した通りの證據を舉示すべきであるのを、そのことを省略してそれに代えたものであること明かである。従つて原判決にも、第一審判決に摘示されたと同様の證…
事件番号: 昭和24(れ)2151 / 裁判年月日: 昭和24年12月24日 / 結論: 棄却
論旨は、本件には、再審を請求することのできる場合に該る事由があるというのであるが、かかる事由は上告の適法な理由とすることのできないことは、刑訴應急措置法第一三條第二項の規定するところである。