被告人は砂糖の公定價額を知らなかつたのだから犯意を欠く、というのが論旨の重點である。しかし記録についてつぶさにしらべて見ると被告人は、砂糖の公定價格を知らなかつたにしても、本件買受行爲が公定價格をはるかに超過する價額によるものであることは知つていたものと認められる。ともかくも被告人がその買受が闇取引であることを知つていたことは認められるのであつて、たとい砂糖の公定價額を知らなかつたとしても本件買受けについて犯意を欠いたとは言い得ない。
物價統制令違反罪における工定價格の不知と犯意の成否
刑法38條,物價統制令3條
判旨
物価統制令違反における犯意の成立には、公定価額の具体的数値を認識している必要はなく、取引価格が公定価額を超過していることの認識(闇取引であることの認識)があれば足りる。また、他に入手手段がなかったことや私的用途であることは、違法性や有罪性に影響しない。
問題の所在(論点)
公定価額の具体的な数値を認識していない場合に物価統制令違反の犯意が認められるか。また、統制外の入手手段の欠如や私的利用目的が違法性や犯罪の成否に影響するか。
規範
物価統制令違反の罪が成立するためには、公定価額を具体的に知らなくても、当該取引が公定価額を上回る価額(いわゆる闇価格)によるものであることを認識していれば、犯意(故意)に欠けるところはない。また、統制外の入手手段の欠如や、購入目的が営業用でなく家庭用であることは、同令の適用を排斥する理由にはならない。
重要事実
被告人は、八貫目入砂糖1袋を、法定の統制額を1万3360円超過する2万1600円(公定価額の2.5倍以上)で買い受けた。被告人は「当時の(闇)価格としては非常に安かったので買った」と供述しており、当時の公定価額の具体的な数値は知らなかったものの、本件買受行為が闇取引であることを認識していた。被告人は、他に砂糖の入手手段がなかったことや、家庭用であったことを理由に無罪を主張した。
あてはめ
被告人は砂糖の具体的な公定価額を知らなかったが、公定価額の2.5倍以上という著しく高額な代金を支払っており、本件が公定価格をはるかに超過する闇取引であることは認識していたといえる。この認識があれば、規範に直面しながらあえて行為に及んだといえ、犯意は認められる。また、統制令は正に正規ルート以外での入手を禁じているのであるから、他の手段がないことは弁解にならず、国家が期待する物価安定や経済秩序を害する以上、家庭用であっても実害がないとはいえない。
結論
被告人に物価統制令違反の犯意が認められ、有罪とした原判決は正当である。公定価額の不知や入手困難性、使用目的は犯罪の成立を妨げない。
実務上の射程
行政刑法における「法律の錯誤」と「事実の錯誤」の境界、特に統制額(公定価格)の認識の要否に関する射程を持つ。規範的具体的事実の認識があれば足り、具体的な法令の定めの不知は故意を阻害しないという法理の確認として機能する。
事件番号: 昭和24(れ)1694 / 裁判年月日: 昭和26年11月15日 / 結論: 棄却
一 原判決は、弁護人の「当時被告人において進駐軍の許可があり違法でないものと信じていたものであるから、犯意を欠き罪とならないものである旨」の主張に対し、所論のごとく当時被告人は判示超過価格による精米の売買につき違法の認識を有しなかつたと断じながら右は通常人としての注意を著しく欠き判示超過価格による精米の売買が法律上許容…