一 昭和二〇年勅令第五四二號が舊憲法下においても新憲法下においても有効であることは既に當裁判所大法廷の判例とする處である。(昭和二二年(れ)第二七九號事件判決) 二 縣が本件物件を一一〇圓で賣つたからといつて、これを以て直ちに該物件の適正價格が一一〇圓であるとすることは出來ない。原審の舉示した證據を參酌して見ると、原審はその適正價格を高くとも九一圓三一錢の九割下と見たものと推測することが出來る。此品物を一六〇圓で賣つた被告人の行爲を、不當高價賣却と爲した原審の判斷は正當である。 三 適正價格が何程であるかわからなければ、、被告人の爲した賣却が物價統計令第九條ノ二所定の不當價格のものなりや否やを判斷すること出來ないのは勿論だから、裁判所は適正價格が何程なりやの審査をしなければならないことはいう迄もない。しかし判文に被告人の犯罪行爲を判示するに當つては必ずしも適正價格が何程であつたかを明示する必要はない。 四 一九四五年九月二二日指令第三号中二、経済統制(イ)の項にいわゆる「維持する」とは、従来存した統計をそのまま維持する意味ではない。 五 所論の公判調書に「裁判官何某」と記載されているのは「判事又は判事補何其」と記載されているのと同じであつて、これを以て、刑事訴訟法第六〇條第二項第二號所定の判事の官氏名の記載を缺くが故に無効であるということはできない。
一 昭和二〇年勅令第五四二號の効力 二 縣が一一〇圓で賣つた物件を一六〇圓で賣つた行爲と不當高價賣却 三 物價統制令第九條ノ二違反行爲につき適正價格判示の要否 四 一九四五年九月二二日指令第三号中二、経済統制(イ)の項にいわゆる「維持する」の意味 五 判事又は判事補の官氏名を「裁判官何某」と記載した公判調書の効力
昭和20年勅令542號,物價統制令9條ノ2,物價統計令9條ノ2,刑訴法360條1項,刑訴法60條2項2號,1945年9月22日指令3号中2、経済統制(イ)
判旨
物価統制令違反の罪が成立するには、売却価格が適正価格を超えて不当であると認められれば足り、判文において適正価格がいくらであるかを具体的に数字で明示することまでは要しない。
問題の所在(論点)
物価統制令違反(不当高価売却)の罪において、判決書に「適正価格」の具体的な金額を明示する必要があるか。また、同令(緊急勅令)の憲法上の有効性が問題となる。
規範
物価統制令(昭和21年勅令第118号)における不当高価売却の罪の成否について、裁判所は売却が不当価格によるものか否かを審査するため、適正価格が何程であるかを検討しなければならない。しかし、有罪の判決書において被告人の犯罪行為を判示するにあたっては、必ずしも適正価格の具体的な数値を明示する必要はなく、被告人の売却価格およびその価格が不当であった旨を判示すれば、罪の成立を認めるに十分である。
重要事実
被告人らは、ある物件を160円で売却した。当該物件について、県は110円で売却していたが、原審はその適正価格を高くとも約91円の9割下程度(約82円)と推測した上で、被告人らの売却行為を不当高価売却と認定した。被告人側は、運賃等の諸経費を差し引けば利益はわずかであり、また適正価格が不明確であるとして、原判決の違法を主張して上告した。
あてはめ
本件において、原審は証拠に基づき、被告人らの売却価格が不当に高価であることを認定している。被告人らは運賃等の諸経費の存在を主張するが、原審の認定によれば運賃は軽少であり、利益が僅少であるとの主張は採用されていない。適正価格が何程であるかの審査自体は必要であるが、判文上は売却価格がいくらであり、それが不当であったことが示されていれば、具体的な適正価格の数値を特定・明示しなくても、不当高価売却の事実は十分に認定されていると解される。また、物価統制令は、連合国軍最高司令官の指令に基づき、議会を待てない緊急の必要性から緊急勅令として制定され、後に議会の承認を得ているため、手続的にも実体的に有効である。
結論
判文に具体的な適正価格の数値を明示する必要はなく、売却価格が不当であるとの認定があれば、物価統制令違反の罪は成立する。したがって、本件上告を棄却する。
実務上の射程
行政統制法規において「不当な価格」等の抽象的な要件が定められている場合、その判断基準となる「正当な価格」を裁判所が審理で認定する必要はあるが、判決書(理由)においてその具体的な計算過程や確定額を全て記載することまでは要求されないという、罪状認否の判示事項に関する実務上の限界を示したものである。
事件番号: 昭和24(れ)1002 / 裁判年月日: 昭和26年1月23日 / 結論: 棄却
しかし物価統制令なるものは、当該時期の経済状態に即応した物価の適正を期し需給関係の円滑をはかり国民経済の運行を確保しようとするものであるから、販売価格の当否は当然に販売当時の指定価格を基準として決すべきであつてその後指定価格の廃止は、犯罪の成否に影響しないことおよび指定価格の変動のあつた場合も同様であることは当裁判所の…