しかし物価統制令なるものは、当該時期の経済状態に即応した物価の適正を期し需給関係の円滑をはかり国民経済の運行を確保しようとするものであるから、販売価格の当否は当然に販売当時の指定価格を基準として決すべきであつてその後指定価格の廃止は、犯罪の成否に影響しないことおよび指定価格の変動のあつた場合も同様であることは当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第八〇〇号同二五年一〇月一一日大法廷判決指定価格の廃止の場合については、井上裁判官の少数意見がある。)とするところである。
物価統制令違反の罪において販売価格の当否を決すべき基準時
物価統制令3条,旧刑訴法363条3号
判旨
物価統制令違反の成否は、販売当時の指定価格を基準として判断すべきであり、その後の指定価格の廃止や変動は、特段の事情がない限り、犯罪の成否に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
物価統制令違反の罪において、行為後に指定価格(公定価格)が改定・廃止され、行為時の販売価格が後の公定価格の範囲内となった場合、刑法6条(または旧刑訴法上の刑の廃止)の適用により犯罪が成立しなくなるか。
規範
物価統制令は、当該時期の経済状態に即応した物価の適正を期し、需給関係の円滑を図り、国民経済の運行を確保することを目的とする。したがって、販売価格の当否は、当然に販売当時の指定価格を基準として決定すべきであり、行為後に指定価格の廃止や価格の変動(公定価格の上昇等)があったとしても、それは法律の改廃による刑の廃止(旧刑訴法適用上の理論)等には当たらない。
重要事実
被告人が、当時の物価統制令に基づく指定価格(公定価格)を超過する価格で商品を販売したとして、同令違反に問われた。上告審において弁護人は、犯行当時の取引価格が、その後の原審判決当時の公定価格と比較すればその範囲内(または同等)であるため、本件は罪とならない、あるいは量刑が不当であると主張した。
あてはめ
物価統制令の趣旨は、その時々の流動的な経済状況に即した適正な物価の維持にある。本件において、被告人は販売当時の指定価格を超過して販売しており、その時点での国民経済の運行を阻害する危険が生じている。その後に社会情勢が変化し、公定価格が引き上げられたとしても、それは過去の違反行為の違法性を遡及的に消滅させるものではない。したがって、販売当時の指定価格を基準に犯罪の成否を決すべきである。
結論
本件行為を罪とならないとする主張には理由がなく、犯罪は成立する。
実務上の射程
法令の改廃が「事実上の変更」に過ぎないか、あるいは「法律そのものの変更」にあたるかという限時法の問題に関するリーディングケースの一つ。現在の刑法6条や刑訴法337条2号(免訴)の適用において、行政上の規制内容の変動(指定価格の変更等)は単なる事実上の変更と解され、行為時の違法性は否定されないとする判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)32 / 裁判年月日: 昭和26年1月23日 / 結論: 棄却
なるほど、木炭の価格販売の統制額は昭和二五年三月一五日物価庁告示二〇七号によつて廃止されているが、犯罪後に物価統制令に基づく価格等の統制額が廃止されても旧刑訴法第三六三条二号に該当せず、行為時法によつて処罰せられるものであることは、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第八〇〇号、同二五年一〇月一一日大法廷判決)とするところ…