一 かりに被告人が事實上便宜の取計をしなかつたとしても、便宜の取計をすると否にかかわず、職務に關し金員の贈與を受けたとすれば收賄罪を構成するものである。原判決が「Aから貨車の割當について便宜の取計をしてくれた報酬として供與されるものであることを知りながら」と判示したのは、被告人に現實に便宜の取計をする意思があつかとか又は被告人が便宜の取計をしたかという趣旨ではなく、被告人はA及びB等が貨車の割當について便宜の取計を受けた報酬としてAが供與するものであるとの情を知つていた事實を判示したものである。そして右判示事實はその舉示の證據で十分に認められる。 二 被告人は具体的の配車について職務上の權限がなかつたものであると主張するのである。なる程個々の配車についてはその部下である配車指令に或程度任されているとしても、貨物係長は原判文説示のように配車指令の爲す職務の遂行を監督指揮する地位にある以上職務に關するものと云わなければならない。
一 便宜の取計をしたことの有無と收賄罪の成否 二 具体的の配車に職務上の權限がなかつたという主張とその監督指揮する地位にある貨物係長の責任
刑法197條1項,刑法193條
判旨
収賄罪の成立には、公務員が職務に関して賄賂を受領すれば足り、現実に便宜の取計らいをしたことやその意思があることは不要である。また、具体的職務権限が直接部下に属する場合であっても、当該公務員が部下を監督指揮する地位にあれば職務関連性が認められる。
問題の所在(論点)
1. 職務権限が部下に委ねられている場合であっても、上司に収賄罪の「職務」関連性が認められるか。 2. 現実に便宜の取計らいを行わず、またその意思がなかったとしても収賄罪は成立するか。
規範
1. 収賄罪(刑法197条1項前段)における「その職務に関し」とは、公務員の職務権限に属する事務を指すが、個別の事務が部下の専権事項であっても、当該公務員がその執行を監督指揮する地位にあるならば職務に含まれる。 2. 賄賂の授受にあたり、現実に便宜を供与したこと、あるいは供与する意思があったことは要件ではなく、供与者が職務に関する対価として提供し、受領者がその情を知って受け取れば足りる。
重要事実
鉄道の貨物係長であった被告人は、貨車の割当について便宜の取計らいを受けた報酬としてAが供与するものであるとの情を知りながら、現金1,000円を受領した。被告人は、個々の配車業務は部下である配車司令に任されており、自身には具体的権限がなかったこと、および実際には便宜の取計らいを行っておらず、不正な職務執行もなかったことを理由に無罪を主張した。
あてはめ
1. 職務権限について、個々の配車事務が配車司令に任されていたとしても、被告人は貨物係長として配車司令の職務遂行を監督指揮する立場にあった。したがって、配車に関する事項は被告人の職務に属するといえる。 2. 賄賂の趣旨について、被告人が現実に便宜を図った事実はなく、執行猶予の情状として「不正が行われなかった」と評価される状況であったとしても、供与者が便宜への報酬として提供するものであることを知って受領した以上、収賄罪の既遂となる。現実に便宜を図る意思の有無は犯罪の成立を左右しない。
結論
被告人の行為は収賄罪を構成する。具体的職務権限が部下にあっても、監督指揮権があれば職務関連性が認められ、現実に便宜を図らなくても対価性の認識があれば足りる。
実務上の射程
公務員の職務権限を広めに捉える際の根拠として重要である。特に「監督指揮権」に基づく職務権限の拡大は、現代の組織的な行政運営においても通用する枠組みである。また、収賄罪が職務の不可買収性を保護法益とすることを端的に示す事案として、あてはめで「不正の有無」を問わない論理を構成する際に有用である。
事件番号: 昭和32(あ)1490 / 裁判年月日: 昭和32年11月21日 / 結論: 棄却
大蔵事務官として南九州財務局長官官房総務課文書係である者は、同財務局(理財部金融課)の行う金融機関の業務および財産の検査についても、その日時の事前内報をしてはならない職務を有する。