一 本件記録の中に被告人「A辺B藤」なる者の供述記録が存在しないことは所論の通りである。しかし本件記録には「A部B蔵」に対する司法警察官の訊問調書並びに検事の聴取書があり、公判請求書にも被告人として「A部B蔵」と表示されており、第一審公判調書にも同人の供述記載がある。故に原判決が証拠説明の部分で「原審(第一審)公判調書中被告人A辺B藤の供述として……旨の記載」と表示している「A辺B藤」というのは「A部B蔵」の誤記であること明らかである。 二 裁判長が証拠調をした証拠書類、証拠物を公判調書に記載するには、如何なる証拠書類、証拠物について証拠調がなされたかを明確にすれば足り、必ずしも証拠書類、証拠物の一々について個別的具体的に掲記する必要はないこと、既にしばしば当裁判所の判例に示されている通りである。
一 公判調書中における被告人名の一字の誤記 二 証拠調をした証拠書類及び証拠物を公判調書に記載する具体性の程度
舊刑訴法72條,舊刑訴法64條,舊刑訴法60條2項,舊刑訴法60條2項8號,舊刑訴法60條2項9號
判旨
判決書における証拠の表示に誤記があっても、記録上その対象が特定できる限り、証拠に基づかない事実認定の違法はない。また、公判調書における証拠調べの記載は、対象が明確であれば個別具体的に掲記することを要しない。
問題の所在(論点)
1.判決書における証拠の引用に氏名の誤記がある場合、証拠によらずに事実を認定した違法(採証法則違反)となるか。 2.公判調書における証拠調べの記載は、証拠の一々を個別具体的に掲記しなければならないか。
規範
1.判決における証拠の引用に誤記がある場合でも、記録上の他の表示(被告人の氏名、公判請求書、他審級の調書等)と照らし合わせ、その証拠の対象が客観的に特定できるのであれば、採証手続に実質的な違法はない。 2.公判調書への証拠調べの記載は、いかなる証拠書類・証拠物について証拠調べがなされたかが記録と相まって明確であれば足り、必ずしも個別に掲記する必要はない。
重要事実
原判決において、証拠説明として「被告人A辺B藤の供述」という旨の記載があった。しかし、実際の記録上には「A部B蔵」という氏名の被告人の供述調書や公判調書が存在するものの、「A辺B藤」なる人物の供述記録は存在しなかった。また、弁護人は公判調書における証拠調べの記載方法が不十分であり、憲法31条や刑事訴訟法に違反すると主張して上告した。
あてはめ
1.本件記録によれば、被告人は「A部B蔵」と表示されており、原判決が引用した「A辺B藤」は明らかな誤記である。第一審の公判調書には「A部B蔵」の供述として原判決が摘録した内容と同旨の記載があるため、誤記があるからといって証拠に基づかない認定とはいえない。 2.公判調書の記載については、記録全体と照らして、どの証拠について調べが行われたかが判明すれば足りる。本件でも証拠調べがなされたことは明白であり、適法である。
結論
原判決に証拠によらずに事実を認定した違法はなく、公判調書の記載方法にも刑事訴訟法および憲法31条違反の不備は認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
判決書や調書の些末な誤記や記載の簡略化が、直ちに事実認定の違法や適正手続違反(憲法31条)を構成するわけではないことを示す。実務上、証拠の特定可能性が記録から担保されている限り、形式的な不備を理由とした上告は制限される。
事件番号: 昭和24(れ)2446 / 裁判年月日: 昭和25年2月21日 / 結論: 棄却
原審公判調書に、裁判官は「各訊問調書」の證據調をしたと記載されていることは、所論の通りである。しかし、右の記載は被告人に關する本件記録中に存するすべての訊問調書について證據調をした趣旨であることが明らかであつて、記録と對照すればそれが如何なる訊問調書であるか具体的に判明するのであるから、右の場合を所論のように「一件記録…
事件番号: 昭和30(あ)556 / 裁判年月日: 昭和30年6月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白を補強すべき証拠が存在する場合には、憲法38条3項及び刑訴法319条2項にいう自白の補強法則に反せず、有罪判決を維持することができる。 第1 事案の概要:被告人Aの自白に基づき有罪判決が下された事案において、弁護人は第一審判決が挙示した証拠の中に自白を補強すべき証拠が存在しないと主張し…
事件番号: 昭和26(れ)1524 / 裁判年月日: 昭和26年11月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本判決は、弁護人が主張する事由は単なる事実誤認の主張であって、刑事訴訟法405条の上告理由に該当しないと判断した。また、職権による破棄を定めた同法411条を適用すべき事由も認められないとして、上告を棄却した。 第1 事案の概要:上告人(被告人)側が、原判決(第2審)の認定事実について不服を申し立て…