所論において、原判決が公訴請求のない事實を認定して有罪を言渡したのは違法であると主張している點は、檢事が窃盜の事實を起訴したのに對し、原判決は賍物運搬の事實を認定したものであつて、兩者は共に犯人の所有にかかる財物に關する犯罪であつて互に密接の関係を有し、賍物運搬は窃盜の事後においてこれに便益を確保する犯罪であるから、窃盜罪の公訴事實中には賍物運搬罪の事實を含むものと解すべく、罪名に變更があつても、起訴事實の同一性を害するものではない。
窃盜の起訴事實を賍物運搬と認定した判決と起訴事實の同一性
刑法第235條,256條2項,舊刑訴法291條,舊刑訴法410條18號
判旨
窃盗罪の公訴事実には、その事後的に便益を確保する関係にある贓物運搬罪の事実が含まれるため、窃盗から贓物運搬への罪名変更は公訴事実の同一性を害さず適法である。また、判決の宣告は作成済みの判決書に基づき行われるため、審判に関与していない裁判官が宣告にのみ関与することも許容される。
問題の所在(論点)
1.窃盗罪で起訴された事実に対し、贓物運搬罪を認定することは公訴事実の同一性(旧刑訴法下の概念)を逸脱しないか。2.事件の審判に関与していない裁判官が判決の宣告を行うことは適法か。
規範
1.公訴事実の同一性について:被告人の行為が他人の所有に係る財物に関する犯罪であり、一方が他方の事後において便益を確保する密接な関係(窃盗と贓物運搬等)にある場合、両者は公訴事実の同一性の範囲内にある。2.判決の宣告について:判決の宣告は既に作成された判決書に基づいて行われる行為であるため、事件の審判に関与しなかった裁判官が宣告に関与することは妨げられない。
重要事実
被告人は窃盗罪で起訴されたが、原審(二審)は公訴事実の範囲内であるとして贓物運搬罪の事実を認定し、有罪を言い渡した。また、原審の結審時および判決書作成時の裁判官構成と、判決言い渡し時の裁判官構成が異なっていた(言い渡し時にのみ、審判に全く関係のない裁判官が裁判長として関与した)。被告人は、これらを公訴請求のない事実の認定および裁判所の構成の違法として上告した。
あてはめ
1.窃盗と贓物運搬は、いずれも同一の他人の財物に関する犯罪であり、贓物運搬は窃盗の事後においてその便益を確保する関係にある。このような密接な関係がある以上、窃盗罪の公訴事実には贓物運搬罪の事実が含まれていると解するのが相当であり、罪名の変更があっても事実の同一性を害しない。2.判決の宣告は、適法に構成された裁判官によって作成された判決書を読み上げる手続に過ぎない。本件では結審時の裁判官らによって適法に判決書が作成されており、言い渡し時に別の一名の裁判官が加わっても、審判自体の適法性に影響を及ぼさない。
結論
上告棄却。窃盗から贓物運搬への認定変更は公訴事実の同一性の範囲内であり、宣告手続における裁判官の交代も違法ではない。
実務上の射程
公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)の判断において、盗品等関与罪と窃盗罪の間に「事実の単一性」を認めた古典的な重要判例である。また、裁判官の交代と判決宣告の可否についても実務上の指針を示している。
事件番号: 昭和26(あ)3398 / 裁判年月日: 昭和27年10月30日 / 結論: 棄却
「被告人IはKと共謀して昭和二五年一二月二日頃堺市a町b丁目)c番地jで自転車一台及び飴一瓶を窃取した。」との窃盗の訴因を「被告人Iは同日右j附近までKと同行し同人の依頼により賍品たる自転車等をその情を知りながら大阪市d区e町f丁目g番地附近まで運搬した。」との賍物運搬の訴因に変更することは差支えない。
事件番号: 昭和25(れ)217 / 裁判年月日: 昭和25年6月13日 / 結論: 棄却
論旨第二點は、被告人Aに對する起訴事實は窃盜であるのに、原判決が賍物運搬として斷罪したのは、不告不理の原則を破るものだ、というのである。しかし賍物運搬は窃盜の事後においてこれに便益を確保する犯罪であるから、窃盜罪の公訴事實中には賍物運搬罪の事實をも含むものと解すべく、罪名に變更があつても、起訴事實の同一性を害するもので…