記録によれば、原審辯護人林圓力は本件窃盗事件の原審第一回公判期日(昭和二四年二月八日)について適法な召喚状を受けたが、その公判期日前所論のように診斷書を添え公判廷期願を提出したこと並びにそれにもかかわらず原審裁判所は、これを許可しないで同辯護人不出廷のまゝ開廷し事實審理をしたことは、いずれも所論のとおりであるしかし原審裁判所は、右第一回公判期日には、結審せずに辯護人不出頭の故を以て審理を續行することにし、同辯護人の希望に應じ次回期日を同年三月一日と指定し、同第二回公判期日には同辯護人も出廷し公判手續を更新した上同辯護人において示談書二八通を提出したのみで何等の異義なく辯論をしたことも記録上明白なところである。されば、原裁判所は同辯護人に對し證據調等の請求をするのに充分な機會を與えたことも明白である。従つて原審々理には何等所論のような辯護權を不法に制限した違法は認められない。
公判廷期願を提出した辯護人の不出廷のまま第一回公判を開廷し、第二回公判に出頭した同辯護人において異義なく辯論をした場合と辯護權の不當制限
舊刑訴法320條,舊刑訴法410條11號
判旨
弁護人が病気等を理由に公判延期を求めたにもかかわらず、裁判所がこれを受け入れず弁護人不出頭のまま事実審理を進めたとしても、その後の期日で弁護人が出廷し、公判手続を更新した上で十分な防御の機会が与えられたのであれば、弁護権を不法に制限した違法はない。
問題の所在(論点)
弁護人が公判延期を申し出たにもかかわらず、裁判所がこれを聞き入れず弁護人不出頭のまま事実審理を強行した手続が、被告人の弁護権を不当に制限する違法なものといえるか。
規範
被告人の弁護権が侵害されたか否かは、公判手続の全過程を照らし、弁護人に対して証拠調べの請求等の防御を行うための十分な機会が実質的に与えられていたかによって判断すべきである。
重要事実
被告人の弁護人は、窃盗事件の第一回公判期日について適法な召喚を受けたが、診断書を添えて公判延期願を提出した。原審裁判所はこれを許可せず、弁護人不出頭のまま開廷して事実審理を行った。しかし、同期日では結審せず、次回の第二回公判期日に弁護人が出廷。裁判所は公判手続を更新し、弁護人は示談書を提出するなどして何ら異議なく弁論を行った。
あてはめ
原審は、第一回公判期日において弁護人不在のまま審理を進めたものの、同日中に結審することなく、弁護人の希望に応じて次回期日を指定している。第二回公判期日においては、弁護人が実際に出廷した上で、公判手続の更新を経て示談書の提出や弁論を行う機会が確保されている。このような経緯に照らせば、原審裁判所は弁護人に対し、証拠調べの請求等をするのに十分な機会を与えたといえる。したがって、一時的に弁護人不在で審理が行われたとしても、実質的な弁護権の侵害は認められない。
結論
原審の審理には弁護権を不当に制限した違法は認められず、上告は棄却される。
実務上の射程
弁護人の欠席により一時的に防御が不十分な状況が生じたとしても、その後の手続更新や十分な立証・弁論機会の付与によって手続的瑕疵が治癒され得ることを示した。裁判所の訴訟指揮権と弁護権の調和の限界点を示唆する事案である。
事件番号: 昭和25(あ)3117 / 裁判年月日: 昭和27年7月8日 / 結論: 棄却
原審が弁護人古明池為重の第一回公判期日の変更申請はこれを許容したが、第二回公判期日の変更申請はこれを許容しなかつたこと及び同弁護人が右公判期日に立ち会わなかつたとしても、右期日に新たに選任された国選弁護人によつて被告人自身が選任した古明池弁護人提出の控訴趣意書に基ずく弁論がなされたこと、その控訴趣意書の内容も特に新たな…