原判決が證據としたAクリーニング株式會社名義の被害始末書にはその法人の代表者の氏名が掲げられて居らず當該會社名の外に單に捺印があるのみであることは所論の通りである。しかし該始末書は刑訴應急措置法第一二條にいわゆる證人その他の者の供述を録取した書類に代わるべき書類であつて、必ずしも會社を代表する社員が作成しその氏名をかがげずとも、盗難品を保管していた者が作成して之を提出することもあるであろうし、要は裁判所においてAクリーニング株式會社の關係社員が作成したものであるとの心證を得、又被告人においても右替替書類の證據能力について爭わなかつた、以上裁判所が之を證據として被告人の自白を補強せしめることは毫も差支えないといわなければならない。
刑訴應急措置法第一二條第一項に該る會社名義の被害始末書にその代表者の氏名の掲記がない場合の證據力
刑訴應急措置法12條1項,舊刑訴法337條
判旨
法人名義の被害始末書に代表者氏名の記載がなく拇印のみであっても、関係社員の作成に係るものであると認められ、被告人が証拠能力を争わない場合には、自白の補強証拠とすることができる。
問題の所在(論点)
法人名義でありながら代表者氏名の記載を欠き、拇印のみが押された被害始末書について、自白を補強するための証拠能力が認められるか。刑事訴訟応急措置法12条(現行刑訴法321条等参照)の代替書類としての適格性が問題となる。
規範
書面が証人その他の者の供述を録取した書類に代わるべき書類(代替書類)として証拠能力を有するか否かは、必ずしも作成者の肩書や氏名の厳格な記載を要するものではなく、裁判所が適法な作成者によるものとの心証を得、かつ被告人がその証拠能力を争わない場合には、証拠として許容される。
重要事実
被告人が窃盗罪に問われた事案において、原審は「Aクリーニング株式会社」名義の被害始末書を被告人の自白を補強する証拠として採用した。当該始末書には、法人の代表者の氏名が掲げられておらず、会社名の横に単に拇印があるのみであった。弁護人は、作成主体が不明確な書面を証拠としたことは違法であるとして上告した。
あてはめ
本件被害始末書には代表者氏名の記載はないが、盗難品を保管していた社員等が作成して提出する場合もあり得る。裁判所が、当該書面はAクリーニング株式会社の関係社員が作成したものであるとの心証を得ており、かつ、被告人側においても当該代替書類の証拠能力について争わなかった。したがって、作成の真正及び証拠としての適格性に特段の疑義はなく、自白を補強するに足りる証拠としての性質を有するものといえる。
結論
代表者氏名の記載を欠く法人名義の被害始末書であっても、関係者の作成が認められ、被告人が同意(不争)している場合には、自白の補強証拠として採用できる。
実務上の射程
伝聞例外(刑訴法321条1項各号等)における書面の成立の真正や作成者の特定に関する緩やかな判断基準を示す。特に実務上、被告人の同意(326条)がある場合や争いがない場合に、形式的な不備が直ちに証拠能力を否定するものではないことを裏付ける際に応用可能である。
事件番号: 昭和24(れ)1220 / 裁判年月日: 昭和24年7月12日 / 結論: 棄却
窃盜罪は他人の所持を侵害する行爲であるから、その目的物の所有者と所持者とが異る場合において其物の所有者を判決の理由に判示する必要はない。