論旨は、原判決に掲げた被告人の第一の(一)の行爲は、選舉運動ではなく、その準備行爲にすぎないと云うのである。しかし、原判決の認定した事實によれば、被告人は自己の當選を得る目的で立候補届出前に選舉運動者たるAに對し運動の費用及び報酬として金三千圓を供與したというのであつて、判文は簡單であるが、その趣旨とするところは、被告人は立候補を豫定して選舉の際における投票を自己に得る目的で選舉運動者たるAをして選舉權者に働きかけさせるため金三千圓を同人に與えたというにあることが判るのであるから、原審が右の行爲を選舉運動と認めて、これを衆議院議員選舉法第九五條に當るものとして同條を適用したのは正當であつて、原判決には所論のような違法はない。
立候補届出前に自己の當選を得る目的で選舉運動者に對し費用及び報酬を供與した者の責任
衆議院議員選舉法95條
判旨
立候補届出前であっても、自己の当選を得る目的で、選挙運動者に対し選挙人への働きかけを依頼する趣旨で金員を供与する行為は、単なる準備行為ではなく「選挙運動」に該当する。
問題の所在(論点)
立候補届出前に行われた選挙運動者に対する金員の供与が、公職選挙法上の「選挙運動」にあたるか、あるいは処罰対象外の「準備行為」にとどまるか。
規範
「選挙運動」とは、特定の選挙につき特定の候補者の当選を図り、または当選させないために、選挙人に働きかける行為をいう。立候補届出前の行為であっても、特定の選挙における投票を自己に得る目的で、他者をして選挙人に働きかけさせるために金員を供与する行為は、選挙運動に該当すると解すべきである。
重要事実
被告人は、衆議院議員選挙に立候補を予定していた。立候補届出前の段階において、被告人は自己の当選を得る目的で、選挙運動者であるAに対し、運動の費用および報酬として現金3,000円を供与した。この際、被告人は「場合によっては買収も止むを得ない」との認識を有しており、Aもまた、必要に応じて買収に充てるべき費用を含む趣旨でこれを受領した。弁護人は、当該行為は「選挙運動」ではなく、その「準備行為」にすぎないと主張して上告した。
事件番号: 昭和24(れ)307 / 裁判年月日: 昭和26年5月2日 / 結論: 棄却
議員選挙に際してその候補者となろうとする者が、いわゆる追放令による覚書非該当者の確認を求めるため、確認の申請をする以前に、立候補の決意を固め自己の当選を得る目的で他人に対し選挙運動を依頼し且つ投票取まとめのための資金を供与した場合には、事前運動及び金銭供与の選挙犯罪が成立することは明らかである。それは、後になつて審理の…
あてはめ
被告人の行為は、立候補を予定した上で、選挙の際における投票を自己に得る目的で行われたものである。供与された金員は、Aをして選挙人に働きかけさせるための「運動の費用及び報酬」として支払われており、その中には必要に応じて買収を行うための資金も含まれていたと認められる。このような、特定の選挙における当選を目的とした外部的な働きかけを依頼する行為は、単なる立候補の準備作業を超え、選挙運動そのものに直結する性質を有しているといえる。
結論
被告人の行為は選挙運動に該当し、衆議院議員選挙法(現行の公職選挙法)違反が成立する。
実務上の射程
選挙運動の始期(事前運動禁止との境界)に関するリーディングケース。目的の特定性と、実質的な働きかけの有無により準備行為と区別する判断枠組みは、現代の公職選挙法解釈においても極めて重要である。
事件番号: 昭和44(あ)1285 / 裁判年月日: 昭和44年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公示前であっても、応援弁士としての選挙運動を依頼し、その報酬として現金を供与する行為は、単なる選挙準備行為ではなく選挙運動にあたる。したがって、公職選挙法違反の罪として処罰の対象となり、憲法21条等の規定にも違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、Aに対し、将来の選挙の公示が行われた際に、応援弁…