議員選挙に際してその候補者となろうとする者が、いわゆる追放令による覚書非該当者の確認を求めるため、確認の申請をする以前に、立候補の決意を固め自己の当選を得る目的で他人に対し選挙運動を依頼し且つ投票取まとめのための資金を供与した場合には、事前運動及び金銭供与の選挙犯罪が成立することは明らかである。それは、後になつて審理の結果、覚書該当者となろうが或は非該当者となろうが、前記犯罪の成立には何等の関係がないと言わればならぬ。
追放令による覚書非該当の確認申請以前における選挙運動と選挙犯罪の成否
衆議院議員選挙法95条,衆議院議員選挙法112条1項1号,地方自治法73条,公職追放令6条,公職追放令8条2項
判旨
公職選挙法上の事前運動及び買収罪は、立候補の決意を固め自己の当選を得る目的があれば、立候補資格の確認申請前であっても成立する。後に資格の有無が確定したとしても、犯罪の成立自体には影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
立候補資格の有無が未確定の状態(確認申請前)で行われた選挙運動の依頼及び資金供与について、事前運動及び金銭供与(買収)の選挙犯罪が成立するか。
規範
公職選挙法(旧法含む)における事前運動等の禁止規定は、特定の選挙に関し、立候補の決意を固め、自己の当選を得る目的でなされた行為を処罰するものである。この目的をもって選挙運動を依頼し、資金を供与した場合には、その時点での公的な立候補資格の確認や届出の有無にかかわらず、犯罪が成立する。
重要事実
被告人は、議員選挙に際して候補者となろうとしたが、当時はいわゆる「追放令」による覚書非該当者の確認が必要な時期であった。被告人は、当該確認の申請を行う前であったが、既に立候補の決意を固め、自己の当選を得る目的で他人に対して選挙運動を依頼し、投票取りまとめのための資金を供与した。弁護人は、立候補資格の確認前であること等を理由に犯罪の不成立を主張した。
あてはめ
被告人は立候補の決意を固めており、自己の当選を得るという明確な目的を有していた。この状態で他人に対し選挙運動を依頼し、資金を供与する行為は、選挙の公正を害するものであり、犯罪構成要件を充足する。その後に審理の結果として、被告人が覚書該当者(資格なし)とされようが非該当者(資格あり)とされようが、行為時において立候補の意思と当選目的が客観的に認められる以上、犯罪の成立に何ら影響を及ぼすものではない。
結論
被告人に事前運動及び買収罪が成立するとした原判決は正当であり、立候補資格の確認前であっても、当選目的での活動があれば処罰の対象となる。
実務上の射程
選挙運動の時期制限や買収罪の成立要件における「候補者となろうとする者」の範囲を確定させる際に活用できる。形式的な届出や資格確認の前後を問わず、実質的な立候補の意思と当選目的があれば足りるという実質的判断の基準を示すものである。
事件番号: 昭和36(あ)2578 / 裁判年月日: 昭和37年4月2日 / 結論: 棄却
特定の選挙につき特定の人の立候補することが予期できる事情が存する場合に、その人の立候補を予期してその人のため公職選挙法二二一条所定の行為をなせば同条の犯罪が成立するものと解すべきことは、当裁判所の判例(昭和二九年(あ)第三七〇一号、同三〇年七月二二日第二小法廷判決、集九巻九号一九四八頁)とするところであり(なお、本件当…