立候補の意思を有する者もしくはその者のために選挙運動をする者が立候補届出前に投票買収等の選挙運動をしたときは、公職選挙法第二二一条の罪および同法第一二九条違反の罪が成立し、右立候補の意思を有した者が、後にこれを断念し、立候補の届出をしなかつたとしても、右犯罪の成立に影響を及ぼさない。
立候補届出前の選挙運動に関する罪の成立と立候補届出の有無
公職選挙法129条,公職選挙法221条,公職選挙法239条1号
判旨
立候補の意思を有する者等が立候補届出前に買収等の選挙運動をした場合、後に立候補を断念したとしても、公職選挙法違反の罪の成立には影響しない。
問題の所在(論点)
立候補の届出前に選挙運動(買収等)が行われた場合において、その後に立候補を断念し届出がなされなかったときでも、公職選挙法221条および129条違反の罪が成立するか。
規範
立候補の意思を有する者またはその者のために選挙運動をする者が、立候補の届出前に投票買収等の選挙運動を行ったときは、直ちに公職選挙法221条(買収罪)および129条(事前運動の禁止)違反の罪が成立する。一度成立した犯罪は、その後に立候補の意思を有していた者が立候補を断念し、届出をしなかったとしても、その成立を妨げられるものではない。
重要事実
被告人(またはその関係者)は、特定の選挙において立候補する意思を有していた。しかし、立候補の届出を行う前の段階で、投票の取りまとめ等を目的とした買収行為(公職選挙法違反に該当する行為)に及んだ。その後、当該立候補予定者は最終的に立候補を断念し、実際の立候補届出はなされなかった。
あてはめ
本件において、行為時に立候補の意思を有していた以上、その段階で行われた買収等の行為は、選挙の公正を害する「選挙運動」としての性質を確定的に備えているといえる。公職選挙法が事前運動を禁止し買収を罰する趣旨は、届出の有無にかかわらず選挙の浄明を維持することにある。したがって、行為後に立候補を断念したという事後的な事情は、既に発生した構成要件的該当性および違法性を消滅させるものではないと解される。
結論
立候補を断念し届出がなされなかったとしても、公職選挙法221条および129条違反の罪が成立する。
実務上の射程
「候補者」の意義につき、現に届出をした者に限定せず、立候補の意思を有する者(立候補予定者)を含むとする解釈を前提とする。事前運動や買収罪の成立時期を画定する際の重要判例であり、後発的な事情によって犯罪の成否が左右されないことを示している。
事件番号: 昭和39(あ)1561 / 裁判年月日: 昭和40年2月3日 / 結論: 棄却
特定の選挙に自ら立候補することを予定して、公職選挙法第二二一条第一項第一号所定の行為を行なえば、たとえ、その行為当時、右選挙に立候補すべき確定的決意が存しなかつたとしても、右の犯罪の成立を妨げない。