特定の選挙につき特定の人の立候補することが予期できる事情が存する場合に、その人の立候補を予期してその人のため公職選挙法二二一条所定の行為をなせば同条の犯罪が成立するものと解すべきことは、当裁判所の判例(昭和二九年(あ)第三七〇一号、同三〇年七月二二日第二小法廷判決、集九巻九号一九四八頁)とするところであり(なお、本件当時本件候補者Aが立候補することの既に予期せられていた事実は、第一審判決挙示の関係証拠により優に認定しうるところである。)、右の行為当時候補者たらんとする者に立候補の確定的決意の存することは右犯罪成立の要件ではないというべきである。
特定の選挙につき立候補することが予期できる事情が存する場合と公職選挙法第二二一条の罪の成立−候補者たらんとする者に立候補の確定的決意の存することを要するか
公職選挙法129条,公職選挙法221条1項,公職選挙法239条
判旨
公職選挙法221条1項の利害誘導罪等は、立候補届出前であっても、特定の者の立候補が予期できる事情がある場合にその者のために同条所定の行為をなせば成立し、行為時において本人に立候補の確定的決意があることは要件ではない。
問題の所在(論点)
立候補届出前における公職選挙法221条所定の行為(買収・饗応接待等)につき、同罪が成立するためには、候補者となろうとする者に立候補の「確定的決意」があることが必要か。
規範
公職選挙法221条1項各号に定める罪(買収・利害誘導等)が成立するためには、特定の選挙につき特定の人が立候補することを予期できる事情が存在すれば足りる。行為時において、候補者となろうとする者に「立候補の確定的決意」が存在していることまでは、犯罪成立の要件ではない。
重要事実
被告人は、特定の選挙におけるAの立候補届出前において、Aの当選を図る目的で饗応接待等を行ったとして、公職選挙法221条の罪に問われた。弁護人は、行為時においてA自身に立候補の確定的決意がなければ同罪は成立せず、判決にはその決意の有無を示すべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件において、行為時にAが立候補すること自体は既に客観的に予期されていた事実が証拠により認められる。同条の趣旨は選挙の公正を確保することにある。特定の者の立候補が客観的に予期できる状況下で、その者のために買収等が行われれば、選挙の公正は害される。したがって、本人の主観的な確定の決意という内心的状態までを必要不可欠な事項と解する必要はない。
結論
行為時において候補者となろうとする者に立候補の確定的決意が存することは、公職選挙法221条の罪の成立要件ではない。したがって、原判決が当該決意の存否を判示しなかったことに違法はない。
実務上の射程
事前運動や届出前の買収行為に関するリーディングケースである。判例は、立候補の「蓋然性」があれば足りるとする解釈を維持しており、答案上では、立候補の時期、周囲の状況、本人の活動内容などの具体的事実から「立候補を予期できる事情」を認定すれば足り、主観的な決意まで立証する必要はない点に留意する。
事件番号: 昭和36(あ)3053 / 裁判年月日: 昭和37年5月17日 / 結論: 棄却
原判決の「以上の事実は原判決挙示の証拠によつて認める」との表示は、第一審判決の掲げた証拠の標目と同一のそれによつて認めたものと解することができるから、原判決には所論のような違法はない。