特定の選挙に自ら立候補することを予定して、公職選挙法第二二一条第一項第一号所定の行為を行なえば、たとえ、その行為当時、右選挙に立候補すべき確定的決意が存しなかつたとしても、右の犯罪の成立を妨げない。
立候補予定者にかかる買収罪の成立と立候補の確定的決意の要否。
公職選挙法221条1項1号
判旨
公職選挙法221条1項1号の買収罪の成立には、行為当時において特定の選挙に立候補すべき確定的決意があることは必ずしも必要ではなく、立候補を予定して選挙運動の目的をもって金銭等を供与すれば足りる。
問題の所在(論点)
公職選挙法221条1項1号(買収罪)における「選挙運動」の意義、および同罪の成立のために立候補の「確定的決意」が必要とされるか。
規範
公職選挙法221条1項1号にいう「選挙運動」とは、特定の選挙につき、特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為をすることを指す。本罪の成立にあたっては、行為者が当該選挙に立候補することを予定していれば足り、行為当時に立候補すべき確定的決意が存していることまでは必要とされない。
重要事実
被告人Aは、昭和34年4月施行の大阪府議会議員選挙に自ら立候補することを予定していた。Aは、同選挙に関連して、被告人Bに対し選挙運動の対価または報酬として現金5万円を供与した。弁護側は、当該行為は「選挙地盤の培養」や「交友範囲の拡大」に過ぎないこと、および当時のAには立候補の確定的決意がなかったことを理由に、買収罪の成立を否定して争った。
あてはめ
本件行為は、単なる地盤培養や交友拡大の範囲にとどまらず、特定の選挙に関する当選を目的とした選挙運動であると認められる。被告人Aは、府議会議員選挙への立候補を予定してこれらの行為を行っており、たとえ行為当時において「立候補すべき確定的決意」が未だ形成されていなかったとしても、立候補を予定して特定の選挙に向けた働きかけを行っている以上、同条の買収罪の成立を妨げるものではない。
結論
被告人Aが立候補を予定して金銭を供与した以上、たとえ立候補の確定的決意がなくても、公職選挙法221条1項1号の罪が成立する。
実務上の射程
立候補前の「事前運動」における買収の成否を判断する際の重要判例。客観的に特定の選挙に向けられた運動と評価でき、主観的に立候補の予定があれば足りることを明示しており、選挙運動の概念を広く解釈する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和36(あ)3053 / 裁判年月日: 昭和37年5月17日 / 結論: 棄却
原判決の「以上の事実は原判決挙示の証拠によつて認める」との表示は、第一審判決の掲げた証拠の標目と同一のそれによつて認めたものと解することができるから、原判決には所論のような違法はない。