判旨
公示前であっても、応援弁士としての選挙運動を依頼し、その報酬として現金を供与する行為は、単なる選挙準備行為ではなく選挙運動にあたる。したがって、公職選挙法違反の罪として処罰の対象となり、憲法21条等の規定にも違反しない。
問題の所在(論点)
公示前に応援弁士としての活動を依頼し報酬を供与する行為が、公職選挙法上の「選挙運動」に該当するか、それとも処罰対象外の「選挙準備行為」にとどまるか。また、これを処罰することが憲法21条等に違反するか。
規範
「選挙運動」とは、特定の選挙につき、特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために直接または間接に有利な影響を与える行為を指す。一方、選挙の準備行為とは、選挙運動を有効に行うための準備であって、選挙運動そのものにはあたらない行為をいう。両者の区別は、行為の態様、時期、目的等を総合的に考慮して判断されるが、選挙に関連して金銭を供与し特定の活動を依頼する行為は、原則として選挙運動の性質を有する。
重要事実
被告人は、Aに対し、将来の選挙の公示が行われた際に、応援弁士として選挙運動に従事してほしい旨を依頼した。その際、当該依頼の報酬として現金を供与した。被告人側は、この行為は公示前の依頼であり、単なる「選挙準備行為」にすぎないため、処罰の対象とすることは憲法21条等に違反すると主張して争った。
あてはめ
被告人がAに対して行った行為は、将来の選挙における特定の候補者のための応援演説という、選挙の結果に直接影響を及ぼす性質の活動を依頼するものである。これに伴い現金を供与することは、選挙運動の買収等にも通ずる行為であり、単なる準備の枠を超えている。したがって、公示の暁に運動をしてもらうという前提があったとしても、その依頼と報酬供与自体が選挙運動の一環と解するのが相当である。
結論
被告人の行為は「選挙運動」に該当し、これを処罰することは憲法に違反しない。したがって、公職選挙法違反の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
選挙運動と準備行為の境界線について、実務上は「特定の選挙・特定の候補者・当選目的・投票勧誘」という要素の有無で判断される。本判例は、公示前の報酬供与を伴う勧誘(依頼)が、準備行為の抗弁を排して選挙運動に該当することを確認しており、事前運動禁止規定や買収罪の適用範囲を画定する際の重要指標となる。
事件番号: 昭和35(あ)2218 / 裁判年月日: 昭和36年2月7日 / 結論: 棄却
一 公職選挙法一二九条、一四二条等にいわゆる「選挙運動」には、同法一三八のいわゆる戸別訪問禁止の規定にいう「投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的」のごとき投票依頼等の目的を要件としないものと解すべきである。 二 ある団体の推せん候補者であることが当選獲得に効果があると認めれる場合に、同団体員でない者が甲某に当選を得…