一 公職選挙法一九七条の二にいう「選挙運動のために使用する労務者」とは、選挙民に対し直接に投票を勧誘する行為又は自らの判断に基づいて積極的に投票を得又は得させるために直接、間接に必要、有利なことをするような行為、すなわち公職選挙法にいう選挙運動を行うことなく、専らそれ以外の労務に従事する者をいう。 二 候補者の氏名を連呼して投票を勧誘する行為に従事した者は、公職選挙法二二一条にいう「選挙運動者」に該当し、同法一九七条の二にいう「選挙運動のために使用する労務者」には該当しない。
一 公職選挙法一九七条の二にいう「選挙運動のために使用する労務者」の意義 二 候補者の氏名を連呼して投票を勧誘する行為に従事した者と公職選挙法二二一条にいう「選挙運動者」
公職選挙法197条の2,公職選挙法221条
判旨
「選挙運動のために使用する労務者」とは、直接の投票勧誘や自己の判断に基づく積極的な選挙活動に従事せず、専らそれ以外の付随的労務に従事する者を指す。候補者名の連呼行為は直接の投票勧誘にあたり、これに従事する者は労務者ではなく「選挙運動者」に該当するため、報酬供与は買収罪を構成する。
問題の所在(論点)
街頭宣伝車からの氏名連呼等の行為が、公職選挙法221条の買収罪の客体とならない「選挙運動のために使用する労務者」による労務に該当するか、それとも「選挙運動」そのものに該当するかが問題となる。
規範
1. 公職選挙法上の「選挙運動」とは、特定の選挙につき、特定の候補者の当選を目的として、投票を得させるために直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすることをいう。 2. 「当選を得させる目的」とは、単に有利な行為をする認識では足りず、性質上より積極的に右目的の下に行われたと認められる場合を指す。 3. 具体的には、(1)直接の投票勧誘行為はそれ自体で目的が認められるが、(2)ポスター貼り等の付随的行為は、自らの判断に基づき積極的に行う等の特別の事情がある場合に限り目的が認められる。 4. したがって、「選挙運動のために使用する労務者」とは、上記1〜3の「選挙運動」を行わず、専らそれ以外の機械的労務に従事する者をいう。
重要事実
被告人らは、市議会議員選挙において、候補者の街頭宣伝車から氏名を連呼し投票を依頼する放送(いわゆる連呼行為)を行った女性4名に対し、選挙運動の報酬として現金(計20万円)を供与した。弁護側は、当該女性らは「選挙に使用する労務者」(公職選挙法197条の2)であり、支払われた金員は実費弁償及び適法な報酬であると主張して買収罪(221条1項3号)の成立を争った。
あてはめ
1. 本件で行われた行為は、不特定多数の選挙人に対し特定の候補者名を告知し、投票を直接働きかけるものであり、「直接の投票勧誘行為」に該当する。また、状況に応じて呼びかけの方法を工夫するなどの裁量の余地も認められる。 2. このような直接勧誘行為は、行為の性質自体から「当選を得させる目的」が認められ、単なる機械的な労務にはあたらない。 3. したがって、当該行為に従事した者は「選挙運動者」に該当し、法197条の2にいう「労務者」には当たらない。これに対する報酬供与は、選挙運動に対する報酬として買収罪の構成要件を充足する。
結論
候補者の氏名を連呼して投票を勧誘する行為に従事する者は「選挙運動のために使用する労務者」に該当しない。したがって、これに対する報酬の供与は、公職選挙法221条1項3号等の買収罪を構成する。
実務上の射程
選挙運動と適法な労務の境界を、行為の「直接勧誘性」と「裁量の有無(主体性)」から画した重要判例である。答案上は、買収罪の成否が問われる場面で、対象者の行為が「直接勧誘(連呼、演説等)」か「付随的労務(宛名書き、ポスター貼り等)」かを峻別し、前者の場合は原則として労務者性を否定する論理として活用する。
事件番号: 昭和35(あ)2218 / 裁判年月日: 昭和36年2月7日 / 結論: 棄却
一 公職選挙法一二九条、一四二条等にいわゆる「選挙運動」には、同法一三八のいわゆる戸別訪問禁止の規定にいう「投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的」のごとき投票依頼等の目的を要件としないものと解すべきである。 二 ある団体の推せん候補者であることが当選獲得に効果があると認めれる場合に、同団体員でない者が甲某に当選を得…