一 公職選挙法一二九条、一四二条等にいわゆる「選挙運動」には、同法一三八のいわゆる戸別訪問禁止の規定にいう「投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的」のごとき投票依頼等の目的を要件としないものと解すべきである。 二 ある団体の推せん候補者であることが当選獲得に効果があると認めれる場合に、同団体員でない者が甲某に当選を得させる目的で、同団体員に対して甲某を候補者として推せんして貰いたい旨の依頼をなす行為は、公職選挙法第一四二条第一項にいわゆる「選挙運動」に該当するものと解すべきである。
一 公職選挙法第一二九条、第一四二条の「選挙運動」と同法第一三八条。 二 団体に対する推せん依頼と公職選挙法第一四二条第一項の「選挙運動」。
公職選挙法129条,公職選挙法142条,公職選挙法138条,公職選挙法142条1項
判旨
公職選挙法上の「選挙運動」とは、特定の候補者の当選を目的として、選挙人に働きかける行為を指し、推薦依頼行為もこれに含まれる。また、同法129条や142条の選挙運動には、戸別訪問禁止規定のような「投票依頼等の目的」を必ずしも要件としない。
問題の所在(論点)
公職選挙法上の「選挙運動」の意義、および特定の団体に対する候補者推薦の依頼行為が「選挙運動」に該当するか。また、選挙運動の成立に「投票依頼等の目的」という主観的要件が必要か。
規範
公職選挙法129条、142条等にいう「選挙運動」とは、特定の選挙につき、特定の候補者の当選を図る目的をもって、直接または間接に選挙人に働きかけ、当選に資する行為をすることをいう。この際、同法138条(戸別訪問禁止)に規定されるような、直接的な「投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的」といった狭義の投票依頼目的までの要件は必要とされない。
重要事実
被告人は、ある団体の推薦候補者となることが当選獲得に効果的であると認められる状況において、当該団体の構成員ではないにもかかわらず、特定の候補者(甲某)に当選を得させる目的で、同団体員に対し、甲某を候補者として推薦してほしい旨の依頼を行った。この行為が公職選挙法142条1項の禁止する「選挙運動」(文書図画の頒布制限に関連する文脈)に該当するかが争われた。
あてはめ
本件において、被告人は甲某の当選を図る目的を有しており、その手段として、当選に実質的な効果を持つ「団体の推薦」を得るべく団体員に働きかけている。このような推薦依頼行為は、特定の候補者を有利にするための活動であり、選挙人の投票行動に間接的に影響を及ぼす性質を持つ。したがって、直接的な投票依頼の形をとっていなくとも、当選に資する目的で行われた以上、選挙運動の概念に包含される。また、法129条等の選挙運動概念は、戸別訪問のように特定の態様を禁ずる条文とは異なり、広義の目的を包含すると解される。
結論
被告人が行った団体への推薦依頼行為は「選挙運動」に該当する。また、同概念の成立には狭義の投票依頼目的は不要であるため、被告人の行為は公職選挙法違反となる。
実務上の射程
選挙運動の定義に関するリーディングケース。答案上では、選挙運動の三要素(①特定の選挙、②特定の候補者、③当選を図る目的)を確認した上で、文書図画の頒布や戸別訪問以外の周辺的行為が「選挙運動」に含まれるかを論じる際の根拠として活用できる。特に「目的」の広汎性を論じる際に有用である。
事件番号: 昭和36(あ)2815 / 裁判年月日: 昭和37年4月12日 / 結論: 棄却
原判決の支持した第一審判決によれば被告人は昭和三五年一一月二〇日施行された衆議院議員総選挙に際し(中略)かねて右選挙に立候補の決意を有していたAの選挙運動者であるB某及C某両名から右Aに当選を得せしめる目的で投票取りまとめ方を依頼されその報酬として現金の供与をうけたものであるというのであり、このような場合はやがて施行さ…