第一審相被告人Aに對する判事の訊問に對いてなした、同人が玄米三俵を自宅より四丁位離れた附近まで運搬して被告人に引渡したこと及び同人が歸宅して疊の上に上つて見ると新聞紙に三六〇〇圓の金があつたこと、その金は、被告人がその後廣島方向へ行つて、行先きが判らなかつたので、そのまま返還はしていない旨の同人の供述記載をば、被告人の供述に對する補強證據とすることは、もとより原審裁判所の自由裁量をもつてなし得るところであるけれども、これをもつて被告人に玄米三俵を賣渡した旨の供述であるとすることは到底是認し難いところである。
他人の供述の趣旨を變更して採證した判決の違法
刑訴法336條
判旨
供述証拠の評価において、供述者が明示的に事実を否定しているにもかかわらず、その文脈を無視して反対の事実を認めることは、証拠の趣旨を誤認した違法な証拠評価にあたる。
問題の所在(論点)
供述者が主要事実(売買の成立)を明示的に否定している場合に、その供述から反対の事実を認定することが、自由心証主義の範疇として許容されるか。証拠の趣旨誤認(虚無の証拠の採用)の有無が問題となる。
規範
裁判所は、証拠の証明力を自由な判断(自由心証主義)により決定できるが、その評価は論理法則及び経験則に従った合理的妥当性を有するものでなければならない。供述証拠を証拠資料とするにあたり、供述の文脈を無視し、供述の内容とは到底解し得ない事実を認定することは、証拠の趣旨を誤認し、存在しない(虚無の)証拠に基づいて事実を認定したのと同様の違法を生じさせる。
重要事実
被告人がうるち玄米3俵を代金3600円で購入した(売買の成立)という犯罪事実につき、原審は共犯者Aの第一審公判調書を証拠として採用した。しかし、当該調書においてAは「米を売ったことはありません」と明示的に否定し、玄米を運搬したことや帰宅後に現金を見つけたこと、被告人が行方不明で返還できなかったこと等を供述していたに過ぎなかった。
あてはめ
共犯者Aの供述は、金銭の授受や米の運搬という断片的な事実に言及してはいるものの、冒頭で売買の事実を明確に否定している。また、残された金銭を返還できなかった事情を説明するなど、全体として売買契約の成立を否定する趣旨で一貫している。これらの供述から「玄米を売り渡した」という事実を認定することは、供述内容の合理的な解釈の範囲を超えており、証拠の趣旨を根本から誤ったものといえる。したがって、原審は証拠として存在しない事実を根拠に断罪したのと等しい。
結論
原判決には、証拠の趣旨を誤り虚無の証拠を断罪の資料に供した違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明白である。よって、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
刑事訴訟における事実認定において、自由心証主義の限界(論理法則・経験則)を画する判例である。答案上は、証拠の評価が不合理で「証拠の趣旨を誤認している」場合に、事実誤認や判決影響を論じる際の見本となる。
事件番号: 昭和23(れ)386 / 裁判年月日: 昭和23年10月2日 / 結論: 棄却
一 刑訴應急措置法第一二條第一項本文は同項所定の書類は被告人の請求があるときは、その供述者又は作成者を公判期日において訊問する機會を被告人に與えなければこれを證據とすることができない旨を規定しているのであるから、被告人からその請求がなかつた場合には同項所定の書類はその供述者又は作成者を公判期日において訊問する機會を被告…