一 刑訴應急措置法第一二條第一項本文は同項所定の書類は被告人の請求があるときは、その供述者又は作成者を公判期日において訊問する機會を被告人に與えなければこれを證據とすることができない旨を規定しているのであるから、被告人からその請求がなかつた場合には同項所定の書類はその供述者又は作成者を公判期日において訊問する機會を被告人に與えなくてもこれを證據とすることを妨げない趣旨であることは洵に明瞭である。(昭和二三年(れ)第一六七號、同二三年七月一九日判決) 二 食糧管理法そのものを目して憲法に違反する立法であると謂うことができないのは勿論である。(昭和二三年(れ)第二〇五號、同年九月二九日判決) 三 (第一審の證據法則違背を第二審及び第三審共に是認したるは違法なりと上告論旨に對し)かかる事由は原判決が違法に違反したことを主張したものでないから日本國民憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に關する法律第一七條の上告適法の理由とならない。
一 刑訴應急措置法第一二條第一項の法意 二 食糧管理法の合憲性 三 證據法則違背の主張と刑訴應急措置法第一七條の上告理由
刑訴應急措置法12條1項,刑訴應急措置法17條,憲法25條1項,食糧管理法9條31條,食糧管理法施行規則23條ノ7,食糧管理法施行令11條ノ5
判旨
食糧管理法による主要食糧の取引制限は、国民全体の食糧確保と経済の安定を図るものであり、憲法が保障する基本的人権を侵すものではなく合憲である。また、被告人から尋問の請求がない限り、供述録取書等を公判期日での尋問なしに証拠とすることは、刑事訴訟法応急措置法に反せず、憲法上も許容される。
問題の所在(論点)
食糧管理法による食糧取引の制限が憲法に違反するか。また、被告人の請求がない場合に、作成者の尋問を行わず供述書面を証拠として採用することが憲法および刑事訴訟法応急措置法12条1項に違反するか。
規範
経済的混乱を防止し、国民全体に平等な食糧確保を図り、国民経済の安定を目的とする立法は、公共の福祉に合致する。また、伝聞証拠の証拠能力について、被告人の請求がない場合に証拠として採用することは、憲法が定める刑事手続の保障(直接審理主義の要請)に直ちに反するものではない。
重要事実
被告人が食糧管理法違反で処断された事件において、第一審・第二審で有罪判決を受けた。弁護側は、(1)作成者の尋問なしに売渡始末書を証拠に採用したことは憲法および刑事訴訟法応急措置法12条1項に違反し、(2)食糧管理法そのものが主要食糧の自由な取引を制限するもので憲法違反であると主張して上告した。記録上、被告人側からは作成者に対する尋問の請求や証人尋問の申請はなされていなかった。
あてはめ
食糧事情が極めて困難な現状において、自由な取引を放任すれば価格が高騰し、国民の大多数が生存に必要な食糧を確保できなくなる。このような経済的混乱を避けるための規制は、国民全体の基本的人権を保障する憲法の精神に合致する。また、刑事訴訟法応急措置法12条1項は、被告人が請求した場合にのみ尋問機会を与えることを要件としており、本件のように被告人からの請求がない以上、尋問なしの証拠採用は同条に反せず、違憲ともいえない。
結論
食糧管理法は合憲であり、被告人からの請求がない状況で供述書面を証拠採用した手続も適法であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
生存権(25条)や経済的自由の制限に関する初期の重要判例として、公共の福祉による規制の正当化を論じる際の論拠となる。また、刑事手続においては、被告人の権利放棄(請求の不在)を前提とした伝聞例外の許容性を示す。現在の憲法22条・29条の枠組みや刑訴法321条以降の伝聞例外規定の解釈においても、その基本的な考え方は維持されている。
事件番号: 昭和24新(れ)322 / 裁判年月日: 昭和25年7月13日 / 結論: 棄却
一 食糧管理法が自家消費の爲のみにする主要食糧の移動であつても法定の除外事由がない限りこれを處罰すべきものと定めているからといつて同法をとらえて憲法第二五條の規定に違反するものといえないことは當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第二〇五號同年九月二九日大法廷判決、判例集第二卷第一〇號第一二三五頁以下)の趣旨とするところであ…