一 犯罪の日時は、主として犯行を特定する事項たるに過ぎないから、特にこれを認めた證據を舉示せねばならぬものではなく、從つて、これに對する證據上の非難は採るを得ない。 二 食糧管理法施行令第一〇條の二にいわゆる生産者とは、同條制定の趣旨に照らし同條の適用については、名儀上供出義務者たる生産者のみを言うものではなく、これと共に一家共同の仕事として實際上生産に從事する本人の妻のごときをも含むものと解する相當とする。
一 犯罪の日時につき證據説示の要否 二 食糧管理法施行令第一〇條の二にいわゆる生産者の意義
舊刑訴法360條1項,食糧管理法10條の2
判旨
食糧管理法施行令にいう「生産者」とは、名義上の供出義務者に限られず、一家共同の仕事として実際上生産に従事する者も含まれる。また、証人に対する反対尋問権(憲法37条2項)は、被告人にその機会を保障する趣旨であり、被告人の請求がない場合に書面を証拠とすることは違憲ではない。
問題の所在(論点)
1. 罪を認定するにあたり、犯罪の日時を認定するための独立した証拠の挙示が必要か。2. 食糧管理法施行令上の「生産者」の意義。3. 被告人が尋問請求をしなかった場合、伝聞書面を証拠とすることは憲法37条2項(反対尋問権)に抵触するか。
規範
1. 犯罪の日時は、犯行を特定する事項にすぎないため、特にこれを認めた証拠を挙示することを要しない。2. 食糧管理法施行令10条の2にいう「生産者」とは、名義上の供出義務者だけでなく、実際上生産に従事する者(生産者の妻等)も含む。3. 伝聞証拠について、被告人に供述者等の尋問機会を保障する規定は、被告人の請求があればその機会を与えるべきことを定めたものであり、請求がない場合に証拠能力を認めても憲法37条2項に反しない。
重要事実
被告人は、昭和21年9月から昭和22年8月までの間、計7回にわたり米の生産者7名からうるち精米及びもち精米を計1万3000円で買い受けたとして、食糧管理法違反で起訴された。原審は、被告人の公判供述のほか、生産者らが作成した「始末書」や「上申書」を証拠として事実を認定した。これに対し、被告人側は、①売主の氏名や日時の一部が証拠上不明確であること、②「生産者」ではない者(生産者の妻等)からの買受けが含まれていること、③反対尋問の機会がない書面を証拠としたことは違憲であること等を理由に上告した。
あてはめ
1. 犯罪日時は犯行特定事項にすぎず、特段の証拠挙示は不要である。本件では各書面を総合すれば日時の肯認も可能である。2. 「生産者」の意義については、法令の趣旨に照らし、名義上の義務者のみならず、一家共同の仕事として実際上生産に従事する妻なども含まれると解すべきである。本件の売主らは自ら米を収穫・生産した旨を始末書に記載しており、「生産者」に該当する。3. 証人の供述代用書等の証拠能力に関する規定(刑訴応急措置法12条1項)は、被告人の請求があるときに反対尋問の機会を保障する趣旨である。本件では、被告人及び弁護人は原審において作成者の尋問請求を一切行っていない。したがって、当該書面を証拠としたことに憲法違反はない。
結論
被告人の上告を棄却する。生産者の実質的な判断や、被告人の権利行使を前提とした伝聞証拠の証拠能力の肯定に違法はない。
実務上の射程
1. 公判供述代用書面の証拠能力について、反対尋問権の放棄(請求の不作為)があった場合の合憲性を示す。2. 行政法規上の「生産者」等の概念を、実質的・実態的に解釈する際の手法として参照される。3. 判示事項の一部(犯罪日時の証拠挙示不要論)は、現在の実務における訴因の特定や判決書の記載事項のあり方にも通ずる。
事件番号: 昭和26(あ)4847 / 裁判年月日: 昭和28年4月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】食糧管理法等の規制に基づき、法定の除外事由がない限り、米麦等をその生産者から買い受ける行為は、同法違反の罪を構成する。 第1 事案の概要:被告人が、法定の除外事由がないにもかかわらず、米麦等の主要食糧をその生産者から買い受けたとして、食糧管理法違反で起訴された事案。被告人側は憲法違反等を主張して上…