判旨
証言等の一部を措信し他の一部を不採用とすることは、独立して分離し得る一部であれば事実審の自由裁量に属する。主尋問と反対尋問の供述が食い違う場合にそのいずれを採用するかについても、裁判所の自由な証拠判断の範囲内である。
問題の所在(論点)
証人の供述のうち、主尋問と反対尋問で食い違いがある場合に、その一方のみを信じて事実認定の基礎とすることが、自由心証主義の限界(採証法則)に照らして許されるか。
規範
証拠の証明力の評価は裁判所の自由な判断に委ねられる(自由心証主義、刑訴法318条)。証言や聴取書の一部を信じ、他の一部を採用しないことは、それが「独立して分離し得る一部」である限り、事実審の自由裁量に属する。ただし、供述の前後の文脈を無視して全く反対の趣旨に解釈することや、供述の趣旨を根本から変更して認定することは、経験則に反し、自由心証の範囲を逸脱するものとして許されない。
重要事実
被告人が上告理由において、原判決の証拠選択が判例に違反し採証の法則を誤ったものであると主張した。具体的には、証人の供述の一部を信じ他を退けた点や、主尋問に対する供述と反対尋問に対する供述が食い違っている状況で一方のみを採用した判断の適法性が争点となった。
あてはめ
本件において、原判決が証言等のうち独立して分離可能な一部を措信し、他を排除したことは、事実審の正当な権限行使である。特に、主尋問と反対尋問で供述が矛盾した場合、そのいずれを採択し、いずれを排斥するかは、裁判官が証人の態度や供述内容の合理性を総合的に判断すべき事柄であり、その裁量を否定すべき理由はない。原判決の判断は、供述の趣旨を不当に変更したり、経験則を無視して正反対の事実を導き出したりしたものとは認められない。
結論
主尋問と反対尋問の供述が食い違う場合にそのいずれを採るかは事実審の自由裁量に属し、原判決の証拠取捨判断に違法はない。
実務上の射程
自由心証主義の限界に関する基本判例である。答案上では、供述の「一部信憑性」を肯定する際の根拠として用いる。特に、反対尋問で供述が揺らいだ証人について、なお主尋問の核心部分を維持して事実認定に用いる場合の正当化論理として有効である。
事件番号: 昭和23(れ)908 / 裁判年月日: 昭和23年12月24日 / 結論: 破棄差戻
第一審相被告人Aに對する判事の訊問に對いてなした、同人が玄米三俵を自宅より四丁位離れた附近まで運搬して被告人に引渡したこと及び同人が歸宅して疊の上に上つて見ると新聞紙に三六〇〇圓の金があつたこと、その金は、被告人がその後廣島方向へ行つて、行先きが判らなかつたので、そのまま返還はしていない旨の同人の供述記載をば、被告人の…