原判決理由は右A、B兩名が被告人の要求に應じないときは如何樣なことをされるかも知れないと意識される樣な言語舉動を示し其爲め右兩名は如何樣のことをされるかも知れないと畏怖心を起したものである旨を説示したと解されるのであつて、如何樣なことをされるかも知れないということは一見漠然としているが、被害者の生命、身體、自由、名譽、財産等の各法意の何れかに對し、何等かの害惡が到來することを認識せしめた旨を説示したものと認め得るから恐喝罪の説示として缺くるところはない。
恐喝行爲説示の程度
刑法249條,刑訴法360條1項
判旨
恐喝罪の手段としての害悪の告知は、必ずしも具体的かつ明示的である必要はなく、被害者に生命、身体、自由、名誉、財産等の法益に対して何らかの害悪が到来することを認識させるに足りる言動であれば足りる。
問題の所在(論点)
恐喝罪の構成要件である害悪の告知において、告知される害悪の内容は具体的に特定されている必要があるか。また、「如何様なことをされるかも分からない」といった抽象的な表現による告知が、恐喝罪の「脅迫」に該当するか。
規範
刑法249条の恐喝罪における「脅迫」とは、相手方の反抗を抑圧するに足りない程度の、人を畏怖させるに足りる害悪の告知をいう。この害悪の告知は、必ずしも告知される害の内容が具体的に特定されている必要はなく、被害者をして「要求に応じないときは如何なる害悪を加えられるかも知れない」と認識させるような言語や挙動を示し、被害者が何らかの法益に対する害悪の到来を予感して畏怖したといえるものであれば足りる。
重要事実
被告人は、被害者Aに対しては「妻と関係を持ったことは不都合だから別れる印(金銭)を貰いたい」旨を申し向け、被害者Bに対しては「娘を無理やり部屋に連れ込んだ覚えがあるだろう、済まんでは済まないだろう」旨を申し向けた。その際、被告人は「要求に応じないときは如何様なことをされるかも分からない」という趣旨を暗に示して金銭を要求し、Aから合計500円、Bから1,000円を交付させた。弁護人は、害悪の内容が具体的でないため恐喝罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
被告人の言動は、被害者らに対し、要求に応じなければ何らかの不利益を被ることを予感させるものであった。判決文において「如何様なことをされるかも知れない」との説示は、一見すると漠然としている。しかし、これは被害者の生命、身体、自由、名誉、財産といった各法益のいずれかに対し、何らかの害悪が到来することを認識させたことを意味すると認められる。したがって、被害者が「如何なることをされるかも知れない」と畏怖心を抱いた以上、それは恐喝罪における害悪の告知としての説示を欠くものではないと解される。
結論
恐喝罪が成立する。害悪の告知は、被害者の法益に対し何らかの害悪が到来することを認識させるに足りるものであれば、その内容が抽象的であっても恐喝の手段となり得る。
実務上の射程
本判決は、害悪告知の程度について「黙示的な脅迫」を広く認めた点に意義がある。答案上は、明示的な脅迫がない事案において、先行する言及(不祥事の指摘等)と金銭要求を組み合わせ、「要求を拒絶すれば何らかの害悪(社会的地位の喪失等)が到来することを認識させるものである」として、恐喝罪の脅迫を基礎付ける際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)908 / 裁判年月日: 昭和24年9月29日 / 結論: 棄却
刑法第二四九條第一項恐喝の罪は害悪の及ぶべきことを通知して相手方を畏怖させることにより財物を交付させる犯罪ではあるが、その害悪の告知は必ずしも明示の言動を要するものではなく、自己の經歴性行及び職業上の不法は勢威等を利用して財物の交付を要求し、相手方をして若しその要求を容れないときは不當な不利益を釀されるの危險があるとの…