原審において被告人の陳述は被告人本人としては別段證據書類に關する反對訊問の請求はしないけれどもなほこの點をも併せてすべて利益の證據提出は辯護人に一任してあるという趣旨に解するのが相當である。然るに本件においては辯護人が檢察事務官のAに對する聽取書について供述者である右Aを證人として申請したにもかかわらず原審裁判所は右聽取書について被告人又は辯護人に供述者に對し審問する機會を與えることなくして之を證據にとつたものであるから正に刑訴應急措置法第一二條一項の規定に違反したものである。
被告人の陳述が聽取書の供述者を證人として請求しない趣旨でなくすべて利益の證據提出は辯護人に一任する趣旨である場合に辯護人の請求にも拘わらず供述者を訊問しないでその聽取書を證據とした判決の違法
刑訴應急措置法12條1項
判旨
被告人が証拠書類に関する反対尋問の請求をしないと述べつつ、利益となる証拠提出を包括的に弁護人に一任した場合には、弁護人による供述者の証人尋問請求を被告人の請求として扱うべきである。
問題の所在(論点)
被告人が「反対尋問請求をしない」と明言しつつ「証拠提出を弁護人に一任する」と述べた場合、弁護人が行った供述者の証人請求を、刑訴応急措置法12条1項(被告人の反対尋問権)に基づく有効な請求と認めることができるか。
規範
刑訴応急措置法12条1項(現行刑訴法321条等に関連する反対尋問権の保障)にいう「被告人の請求」には、弁護人が被告人の意思に基づき請求する場合も含まれる。被告人が法律・訴訟技術に未熟であることに鑑み、被告人の供述は個別的な文言のみに拘泥せず、弁護人への包括的な委任の趣旨を考慮して、その真意(訴訟上の権利行使の有無)を解釈すべきである。
重要事実
被告人は窃盗の意思及び共謀を否認していたが、共犯者Aの検察事務官聴取書にはこれに反する供述があった。原審公判で被告人は、証拠書類に関する反対尋問の請求はしないが、利益となる証拠提出は弁護人に一任する旨を述べた。これを受けて弁護人は、被告人の弁解を立証するため供述者Aの証人喚問を請求したが、裁判所はこれを不要として却下し、Aの聴取書を証拠として採用した。
あてはめ
被告人は、自身の犯罪事実を否認している一方で、訴訟技術に疎いため弁護権の行使を包括的に弁護人に委任している。被告人が弁護人の証人請求に異議を唱えていない事実を総合すれば、被告人の発言は「本人としては請求しないが、利益となる証拠提出(反対尋問機会の確保を含む)はすべて弁護人に委任する」という趣旨であると解するのが相当である。したがって、弁護人によるAの証人請求は被告人の請求と同一視できる。それにもかかわらず、原審が尋問機会を与えず聴取書を採用したのは同条に違反する。
結論
反対尋問の機会を与えることなく供述録取書を証拠とした原判決には、刑訴応急措置法12条1項違反の違法があり、破棄を免れない。
実務上の射程
伝聞証言の証拠能力や反対尋問権の保障(憲法37条2項、刑訴法321条以下)が問題となる場面で、被告人と弁護人の訴訟行為が形式的に矛盾する場合の意思解釈の指針となる。特に被告人が「一任」している場合の弁護人の請求は、被告人の権利行使として最大限尊重すべきという実務上の配慮を示す。
事件番号: 昭和23(れ)1153 / 裁判年月日: 昭和23年12月14日 / 結論: 破棄差戻
被告人の辯護人が爲した公判における證人訊問請求を却下しながら、同人に對する第一審裁判所の證人訊問調書中の供述記載を證據として引用した原判決は違法である。