刑の執行猶豫の言渡をするかどうかは專ら原審の裁量範圍に屬するところであるから、被告人に對し刑の執行猶豫の言渡をしなかつた原判決を目して所論のように公平正當な裁判を受くべき被告人の憲法上の權利を侵した違憲の裁判と云うことはできない。このことは既に當裁判所大法廷が屡々判例として示した通りである(昭和二三年五月二六日言渡同年(れ)第七〇號事件判決、昭和二二年六月九日言渡昭和二二年(れ)第一三八號事件判決)
刑の執行猶豫の言渡をしなかつた裁判と憲法第三七條の「公平な裁判」
刑法25條,憲法37條
判旨
刑の執行猶予を言い渡すか否かは裁判所の裁量に属する事柄であり、諸般の情状を考慮した結果、執行猶予を付さなかったとしても直ちに憲法違反とはならない。
問題の所在(論点)
刑法25条に基づく刑の執行猶予を言い渡すか否かが裁判所の裁量に属するか。また、有利な情状があるにもかかわらず執行猶予を付さない判決が、憲法が保障する「公平正当な裁判を受ける権利」を侵害するか。
規範
刑の執行猶予の言渡しをするか否かは、専ら事実審裁判所の裁量の範囲に属する。したがって、特定の情状が存在する場合であっても、執行猶予を付さないことが直ちに公平正当な裁判を受ける権利(憲法上の権利)を侵害するものとはいえない。
重要事実
被告人は初犯であり、懲役10か月の実刑判決を受けた。被害者に対しては、生活に窮している被告人の父母が工面した金員により、被害金全額(合計3,825円)が弁済されていた。弁護人は、これらの「我が子を愛するが故の弁償」等の事情は刑法25条の情状に該当するものであり、執行猶予を付さないことは不当かつ違憲であると主張して上告した。
あてはめ
刑の執行猶予の判断は裁判所の広い裁量に委ねられている。本件において、被告人が初犯であり被害弁償がなされているという有利な情状が存在したとしても、それらを考慮した上でなお実刑を選択することは裁判所の裁量権の範囲内である。これを憲法違反の判決と評価することはできない。結局、弁護人の主張は単なる量刑不当を主張するものにすぎず、適法な上告理由に当たらない。
結論
刑の執行猶予の付与は裁判所の専権的な裁量事項であり、本件判決に憲法違反の違法はない。上告棄却。
実務上の射程
執行猶予の有無に関する判断の裁量性を肯定した初期の判例である。答案上は、量刑判断の裁量性を基礎づける際に引用できるが、現在は刑事訴訟法400条以下の量刑不当の枠組みで処理されるため、違憲主張の文脈で用いられることは稀である。
事件番号: 昭和26(あ)3742 / 裁判年月日: 昭和28年6月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】執行猶予を付すべき旨の主張は、刑事訴訟法335条2項にいう「刑の減免の理由たる事実」には該当しない。 第1 事案の概要:上告人は、原審の判断に対し、実質的な上告理由として「本件においては執行猶予を付すべきである」旨を主張した。これに対し、原審が適切に判断を示していない(あるいは判断が不当である)こ…
事件番号: 昭和27(あ)3381 / 裁判年月日: 昭和28年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が諸般の事情を考慮した上で被告人に実刑を科すことは、個人の尊厳や幸福追求権を規定する憲法13条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が刑事裁判において実刑判決を受けたのに対し、弁護人は「実刑を科すことは憲法13条に違反する」と主張して上告した。原審における具体的な犯罪事実は本決定文からは不…