一 原判決が證據として引用している各盗難被害屆によれば判事第一窃盗の事實について盗品の所有者A外七名の氏名を知ることができる。ただ判示にかかる被害者一名の氏名を知ることができないけれども、およそ、連續にかかる窃盗罪において、數十點におよび被害金品の所有者の氏名を、もれなく判決に明示しかつこれが證據を舉示することは判決の要件ではないのであるから、この點を以て、原判決に違法ありということはできない。 二 私人の提出した盗難被害屆はたとえその作成者の捺印拇印がなくとも裁判所において、その書類が眞正に成立したものであるとの心證を得た以上これを犯罪の證據とすることは、すこしもさしつかへない。
一 數十點に及ぶ窃盗被害金品の所有者中の一名の氏名を判示しない判決の合法性 二 作成者の捺印拇印のない盗難被害屆の證據能力
刑法235條,刑法55條,刑訴法360條1項,刑訴法337條
判旨
連続窃盗罪において、多数の被害金品の所有者氏名をもれなく判決に明示し証拠を挙示することは、判決の要件ではない。また、被害届に作成者の捺印・拇印がなくとも、真正に成立したと裁判所が判断すれば証拠とすることができる。
問題の所在(論点)
1. 連続して行われた窃盗罪の判決において、被害者全員の氏名の明示および証拠の挙示が必要か。2. 捺印・拇印のない盗難被害届を犯罪の証拠とすることができるか。
規範
判決における犯罪事実の摘示において、窃盗罪の被害者の氏名を全て特定し、それに対応する証拠を逐一挙示することは、公訴事実の同一性を識別し被告人の防御に支障を生じさせない限り、判決の必須要件ではない。また、書証の証拠能力については、作成者の捺印・拇印の有無にかかわらず、裁判所がその書類の真正な成立を認めることができれば、これを証拠として採用することができる。
重要事実
被告人は、昭和22年2月から5月までの間、前後8回にわたり東京都内にて衣類雑品40数点を窃取した。原判決は所有者を「A外8名」とし、証拠として被告人の自白および被害届を挙げたが、記録上は被害者の一部氏名が不明であり、また被害届の中に捺印・拇印のないものが含まれていた。弁護人は、証拠不備による事実認定の不法および捺印のない被害届の採用の違法を主張して上告した。
あてはめ
1. 本件のような連続窃盗罪では、数十点に及ぶ被害品が存在する場合、全ての所有者氏名を網羅的に判決に記載し証拠を付すことは、事案の性質上、判決の有効性を左右する要件とはいえない。2. 証拠能力に関しては、私人が作成した被害届に捺印や拇印が欠けていたとしても、裁判所が当該書類を真正に成立したものと心証を得たのであれば、その証拠価値を認めて採用することに何ら妨げはない。したがって、一部被害者が特定できず、一部の被害届に捺印がないことをもって直ちに違法とはならない。
結論
被害者氏名の一部不記載や被害届の捺印欠如は判決の違法を構成しないため、上告を棄却する。
実務上の射程
窃盗罪等の財産犯において被害者の特定が困難な場合、実務上「氏名不詳」等の記載が許容される根拠となる。また、書証の成立の真正については形式的な捺印よりも実質的な真正が重視されることを示しているが、伝聞法則(刑訴法320条以下)の適用については、本判決が旧刑事訴訟法下のものである点に注意を要する。
事件番号: 昭和23(れ)1838 / 裁判年月日: 昭和24年4月30日 / 結論: 棄却
所論の窃盜難届の末尾にAの指名の記載のないことは所論指摘のとおりである。然し舊刑訴法第七三條は假令所論の如き氏名の記載がなくとも、その一事によりその書類を無効の書類とする旨の規定ではないのである。従つて裁判所において他の證據に依り當該書類が眞正に成立したものであるとの心證を得た以上之を斷罪の證據に供することは少しも差支…