横領罪が成立するには不法領得の意思の存在を必要とすること、所論の通りである。また、本件被告人が原審公判廷において、原判示金員の費消は被害者Aの承諾の上である旨辯疏して、不法領得の意思を否認したことは、原審公判調書によつて明かであり、原判決の證據説明にもあらわれているところであつて、これ亦所論の通りである。然しながら原判決は、被告人の不法領得の意思を認定し得べき何等の證據をも示さずに、右のような被告人の供述のみから横領罪の認定をしたのではなく、被害者Aが第一審公判廷に於て證人として陳述した原判示事實に照應する横領被害顛末の證言、即ち被告人が辯解するように、金員費消の承諾を與えた事實はないという内容の供述と前記被告人の供述とを綜合して横領の事實を認定しているのである。論旨は、原判決が右の被告人の辯疏を何故に無視したのであるかの理由を説示しなかつたことを攻撃しているけれども、これは刑事訴訟法第三六〇條第二項にあたる場合ではないから、その必要はない。
横領罪における不法領得の意思の否認と刑訴第三六〇條第二項
刑法252條,刑訴法360條2項
判旨
横領罪の成立には不法領得の意思を必要とするが、被告人が被害者の承諾があったとしてこれを否認しても、裁判所が被害者の証言等に基づき横領の事実を認定できる場合には、不法領得の意思を肯定できる。
問題の所在(論点)
被告人が「被害者の承諾があった」と主張して不法領得の意思を否認している場合に、裁判所が特段の理由説示なしに横領罪の成立を認めることは、不法領得の意思の要否に関する法の解釈誤りや理由不備の違法に当たらないか。
規範
横領罪(刑法252条1項)が成立するためには、主観的構成要件として「不法領得の意思」の存在を必要とする。この「不法領得の意思」とは、他人の物を預かっている者が、委託の趣旨に反して、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう。
重要事実
被告人は、他人の金員を保管中、これを費消したとして横領罪に問われた。これに対し被告人は、当該金員の費消は被害者Aの承諾を得た上で行ったものであると主張し、不法領得の意思を否認した。しかし、第一審および原審は、被害者Aによる「費消を承諾した事実はない」旨の証言および被告人の供述を総合し、被告人の主張を退けて横領の事実を認定した。
あてはめ
本件において被告人は、被害者の承諾に基づく費消であるとして不法領得の意思を否認する供述を行っている。しかし、裁判所は被告人の供述のみから直ちに判断したのではなく、被害者Aの「承諾を与えた事実はない」という証言を証拠として採用している。不法領得の意思の有無は証拠に基づき判断されるべき事柄であり、被害者の否定証言と被告人の供述を総合して横領の事実を認定した原判決に、法の解釈誤りや理由不備は認められない。また、被告人の弁解を排斥するに際し、刑事訴訟法(旧法)の規定に照らしても特段の理由説示は不要である。
結論
横領罪は成立する。被告人が不法領得の意思を否認しても、客観的証拠に基づき委託の趣旨に反する処分意思が認められる以上、同罪の成立を妨げない。
実務上の射程
横領罪における不法領得の意思の必要性を明示した初期の重要判例である。答案上は、不法領得の意思の定義(権利者排除意思・利用処分意思)を導く際の根拠として活用できるほか、被告人の「承諾があった」という弁解が証拠によって否定されるプロセスを記述する際の規範的基礎となる。
事件番号: 昭和23(れ)1412 / 裁判年月日: 昭和24年3月8日 / 結論: 棄却
一 横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき權限がないのに所有者でなければできないような處分をする意思をいうのであつて必ずしも占有者が自己の利益取得を意圖することを必要とするものではなく、又占有者において不法に處分したものを後日に補顛する意思が行爲當時にあつたからとて横…