一 記録に徴するに第一審判決は、被告人を懲役一年六月に處し未決勾留日數中三〇日を本刑に算入したのに體し、原判決は、被告人を懲役一年に處し、未決勾留日數を本刑に算入しなかつたことは、所論の通りである。しかし判決において未決勾留日數を本刑に算入しなかつたとしてもなお一審判決に比較すれば實刑に服すべき期間は五ケ月短かいので被告人にとり、利益でありまた輕きものであることは明白であるから、未決勾留日數に算入しない一事を以て法律の解釋を誤つたものであるという論旨は理由なきものである。 二 横領罪は自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を外部に發現する行爲があつたときに成立するのであつて、唯自己領得の決意があるだけでは成立しないものである。被告人はA婦人會曾副會長Bから、同曾所有の貨物自動車の賣却方を依頼されてこれを賣却し、其賣却代金六萬圓を二度に受取り、これを元手として賭博をなし一儲しようと決意したことは所論の通りである。しかし被告人は右六萬圓を一度に費消したのではなくて數回にわたつて費消したものであることは、原判決の判文により明かであるから、その費消の度毎に自己領得の意思を發現したものであり、從つて費消の度毎に横領罪が成立したものといわなければならならから、原判決が被告人の行爲を連續犯であると認定したことは正當である。
一 未決勾留日數の不算入と刑訴第四〇三條 二 横領罪における不法領得の意思と連續犯
刑訴法403條,刑法10條,刑法55條,刑法252條
判旨
横領罪は、自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を外部に発現する行為があった時に成立し、単なる不法領得の決意だけでは成立しない。委託を受けて売却した代金を数回にわたって費消した場合、その費消の度ごとに不法領得の意思が発現されたものとして、各行為につき横領罪が成立する。
問題の所在(論点)
横領罪の成立時期および「不法領得の意思の発現」の意義が問題となる。特に、売却代金を費消する決意をした時点か、あるいは個別の費消行為が行われた時点のいずれで罪が成立するか。
規範
横領罪(刑法252条1項)は、自己の占有する他人の物を不法に領得する意思を外部に発現する行為(領得行為)があった時に成立する。単に自己領得の決意があるだけでは足りず、具体的・客観的に領得の意思が表れたことが必要である。
重要事実
被告人は、A婦人会副会長Bから同会所有の貨物自動車の売却を依頼され、これを売却して代金6万円を二度に分けて受領した。被告人は受領した売却代金を元手として賭博で儲けようと決意し、実際に受領した6万円を一度にではなく、数回にわたって費消した。原審はこれを連続犯(旧法)として処理したため、被告人側が既遂時期等について上告した。
あてはめ
被告人は売却代金を受領した際、これを賭博に使うという「決意」を有していたが、この段階ではまだ領得意思が外部に発現されたとはいえない。被告人は受領した6万円を一度に費消したのではなく、「数回にわたって費消」している。この「費消」という事実は、委託の趣旨に反して権限なく処分する行為であり、不法領得の意思を外部に発現する行為に他ならない。したがって、費消の度ごとに領得意思が発現されたものと評価され、各費消行為をもって横領罪が成立すると解するのが相当である。
結論
被告人が売却代金を数回にわたり費消した行為について、その都度横領罪が成立するとした原判決の判断は正当である。
実務上の射程
横領罪の実行の着手と既遂時期が「領得意思の外部への発現」にあることを明確にした基本判例である。答案上では、領得行為の有無を検討する際、単なる内心の決意にとどまらず、委託の趣旨に反する具体的処分行為(本件では費消)が認められるかを指摘する際に引用すべきである。
事件番号: 昭和42(あ)2074 / 裁判年月日: 昭和43年5月23日 / 結論: 棄却
他人との共有にかかる土地を、その依頼により、表面上単独所有者として第三者に売り渡した者が、その第三者から受領した代金は、特約ないし特殊の事情の認められないかぎり、その他人との共有に属し、横領罪の客体となる。