一 刑事訴訟法第三六〇條第一項によつて判決に記載することを要求せられて居る罪となるべき事實を證據により認めた理由の説明はどのような犯罪事實をどのような證據で認めたかに付いて裁判官の推理判斷の由來するところを判決自體から知り得る程度に記載すれば足りるのであつて、必ずしも犯罪事實の各部分に付いて之に該當する證據内容を一々具體的に舉示する必要はない。原判決は判示傷害の事實のうち、傷害の部位程度を其の舉示する醫師の診斷書で、其の他の傷害行爲を其の舉示する他の各證據を綜合して認定したものである目的をもつて本件金員を原審相被告人A及びBから受取り保管していたものであるから被告人の占有に歸した本件金員は被告人の物であるということはできない。又金錢の如き代替物であるからといつて直ちにこれを被告人の財物であると斷定することもできないのであるから本件金員は結局被告人の占有する他人の物であつてその給付者が民法上その返還を請求し得べきものであると否とを問わず被告人においてこれを自己の用途に費消した以上横領罪の成立を妨げないものといわなければならない。 二 被告人外四名が共謀の上本件傷害行爲をしたものであることは前點において説明の通りであるから原判決が之を傷害の共同正犯として刑法第六〇條第二〇四條を適用して處斷したのは正當であつて同法第二〇六條又は第二〇七條は本件のような共同正犯の場合に對して適用すべき規定でないことは云うまでもないところである。論旨はその獨自の立場から本件の傷害が被告人外四名の相互に意思の連絡のない獨立の行爲であることを主張し、之を前提として右兩法條の適用を主張するものであつて、何れも採用に値しない。 三 原判決は被告人外四名がCに對して傷害を與えたのでCが恐れて居るのに乗じて、被告人及び原審相被告人Dの兩名は恐喝の犯意を生じて、Cから金員を喝取したが他の三名はその恐喝行爲に參加しなかつた事實を認定したのであつて、被告人が金員をCから受取るに際して論旨のいうように自己の爲めのみに受取つたのでなく五人の爲めに受け取つたものであるとしても、又Cが被告人に金員を交付するについても、五人の暴行を免れる爲めに五人に交付する意思で偶々近くにいた被告人に交付したものであるとしても、それは被告人に對する本件恐喝罪の成否には何の影響もないことである。
一 罪となるべき事實の認定に關する證據説示の程度 二 共謀による傷害行爲と共謀なき多數者の傷害行爲とに對する適用法條 三 恐喝者が自己の爲のみならず他の者の爲にも金員を受領した場合と單獨恐喝罪の成否
刑訴法360條1項,刑法204條,刑法60條,刑法206條,刑法207條,刑法249條
判旨
複数の者が意思の連絡に基づき傷害行為に及んだ場合、刑法60条の共同正犯が成立し、同法207条の同時犯規定を適用する余地はない。また、先行する暴行による畏怖状態を利用して金員を喝取した場合、受領の態様や交付者の主観にかかわらず、恐喝罪が成立する。
問題の所在(論点)
1. 共謀に基づく傷害行為に対し、刑法207条の同時犯規定を適用すべきか。 2. 暴行による畏怖状態に乗じて金員を受け取った際、交付者の主観や受領の目的が「5名全員のため」であった場合、被告人に恐喝罪が成立するか。
規範
1. 傷害の共同正犯:複数人の間に共謀(意思の連絡)が認められる場合には、刑法60条の共同正犯が成立する。この場合、実行行為者の一部が判明しない場合であっても、独立して実行されたことを前提とする刑法206条や207条(同時犯)の規定は適用されない。 2. 恐喝罪の成立:先行する暴行によって生じた畏怖状態に乗じて金員を喝取する意思が生じた場合、その交付が特定の者のためか、あるいは暴行を加えた全員のためであるかにかかわらず、喝取した者について恐喝罪が成立する。
重要事実
被告人は他の4名と共謀の上、被害者Cに対して傷害行為を及ぼした。その後、被告人と共犯者Dの2名は、Cがこれら5名の暴行によって畏怖している状態に乗じて、金員を喝取しようと考え、Cから金員を受け取った。被告人側は、傷害について意思の連絡がない独立の行為であるとして同時犯の規定の適用を主張し、また恐喝についても5人の暴行を免れるために5人に対して交付されたものであるから被告人個人の恐喝罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
1. 傷害について:原審が証拠に基づき被告人ら5名の共謀を認定している以上、本件は刑法60条の共同正犯に該当する。意思の連絡がある以上、同時犯規定(207条等)を適用すべきとの主張は独自の立場に過ぎず採用できない。 2. 恐喝について:被告人とDが恐喝の犯意をもって金員を喝取した事実が認められる。たとえ被告人が「5人のため」に受け取ったとしても、また被害者が「5人の暴行を免れるため、偶々近くにいた被告人に交付した」としても、畏怖に乗じて金員を喝取したという被告人の恐喝罪の成否には影響しない。
結論
被告人らには傷害の共同正犯が成立し、207条は適用されない。また、畏怖状態に乗じて金員を喝取した以上、交付の経緯がいかなるものであっても恐喝罪が成立する。
実務上の射程
共謀が認定される限り、傷害罪の同時犯特例(207条)は補充的規定として排除されることを明示した事例。恐喝罪においては、先行する暴行者と喝取者が必ずしも一致する必要はなく、他者の暴行による畏怖状態を利用した場合でも、自己に犯意があれば成立し得るという実務上の処理を支持している。
事件番号: 昭和23(れ)426 / 裁判年月日: 昭和23年10月30日 / 結論: 棄却
一 被告人等がAの恐喝につきAと共謀した事實が認定せられる以上、たとえ、右被告人等が、Aの恐喝の實行行爲に現實に加擔した事實がなくとも、共同正犯の罪責を免れないことは、既に當裁判所の判例の示すところによつて明らかである。 二 連合國軍事占領裁判所に事件繋屬中の被告人の拘禁は、刑事訴訟法所定の未決勾留でないことは勿論であ…