一 その證據によつて認めた犯罪行爲を反覆累行した判示事實に徴すれば右八回の連続行爲が犯意繼続の意思に出たものであることを極めて容易に推測し得られるから、かような場合には、特に、證據により犯意の繼続せることを説明しなくとも原判決を破棄するに足る缺點とすることができないものと解するを相當とする。 二 刑法第六〇條に「二人以上共同して犯罪を實行したる者」とある「共同」又は同法第二〇七條にいわゆる「共同者」とあるは、すべて二人以上の者の間に意思連絡のある場合を指すものである。されば右判示に被告人がA外一名と共同して殴打成傷した旨の「共同」が右刑法の法條にいわゆる「共同」の趣旨であるとすれば右三名の間に意思連続あることを證據によりこれを認定判示し且つ刑法第六〇條をも適用すべきである。また、若し、その三名の間に意思連絡のない場合には各自の暴行とその各自の暴行に因り加えたる傷害の部位又は程度とを證據により明確に認定判示して、各自の現に加えた傷害の個數又は程度に對してのみそれぞれ刑法第二〇四條の責を問うべきである、また、若し、右三名の者が暴行を爲し人を傷害したこと明白であるが、その各自の間に意思連絡がなく、且つ各自の加えた傷害若しくはその程度を知り得ないときは、その旨を明瞭に判示して同法第二〇四條の外同第二〇七條をも適用して各自に對しそれぞれ全部の個數程度の傷害の責任を負擔せしむべきものである。然るに現判決の認定判示した事實は、右の三つの場合の何れであるかを知り得ない。従って、原判決は、判決の理由を具備しない違法あるものというべく、論旨は結局その理由あるに歸し、第二事實に關する原判決の部分は破毀を兎れない。 三 醫師Bの本件診斷書中の所論摘示の記載は同醫師の判斷と共にその判斷に至る経過をも記載したものであることは明らかであつて、これによれば同醫師は、所論の如く、單に被害者の言のみを聴取り若しくはこれのみを信用したものではなく、被害者の自訴と自からの檢査とによる見聞實驗の結果に基き原判決が證據として採用した、趣旨の傷害の部位程度の判斷を爲したものであることを看取することができる。されば同醫師の措置は正當であるのみならず同診斷書にかかる経過的記載あるの故を以てその證據としての能力乃至價値を否定すべき何等の理由も存しない。
一 犯意繼続の意思が判示事實から容易に推測し得られる場合、これについて證據説示の要否 二 被告人が他の者と「共同」してなした殴打成傷につき意思連絡の有無及び刑法第二〇七條に該るか否かの點を明らかにしていない判決の違法性 三 被害者の自訴と醫師自身の見聞實驗の結果とを併せ記載した診斷書の證據能力及び證據價値
旧刑法360條1項,刑法(改正前)55条,刑法204條,刑法60條,刑法207條,旧刑訴法360條1項,舊刑訴法336條
判旨
刑法60条の「共同」および207条の「共同者」は、いずれも二人以上の者の間の意思連絡を指す。共犯関係が認められない場合、原則として各自が自ら加えた傷害についてのみ責任を負うが、意思連絡がなくとも各自の暴行と傷害の結果との因果関係が不明なときは、同法207条を適用して各自に全責任を負わせるべきである。
問題の所在(論点)
刑法207条(同時犯の特例)の適用要件である「共同して」の意義、および共犯関係が認められない場合における傷害責任の帰属がいかにあるべきか。
規範
1. 刑法60条および207条にいう「共同」とは、二人以上の者の間に意思連絡があることを要する。2. 二人以上が暴行を加え傷害が生じた場合において、(1)意思連絡があるときは、刑法60条の共同正犯として全責任を負う。(2)意思連絡がないときは、原則として各自が加えた部位・程度の傷害につき刑法204条の責任を負う。(3)意思連絡がなく、かつ各自の暴行と傷害の結果との因果関係が不明なときは、刑法207条を適用し、各自に全部の傷害の責任を負わせる。
重要事実
被告人が他の2名(A外1名)と共同して、被害者Dの顔面等を殴打し、鼓膜破裂等の傷害を負わせた。原判決は、この事実に対し刑法204条(傷害罪)のみを適用したが、3名の間に意思連絡があったのか、あるいは意思連絡がない場合に各自の暴行と損害の関係が特定されているのか、あるいは特定不能で207条が適用されるべき事案なのかを明示しなかった。
あてはめ
本件において、被告人が他2名と「共同して」殴打し傷害を負わせたという認定が、刑法上の意思連絡を意味するのであれば、証拠に基づく意思連絡の認定と刑法60条の適用が必要である。仮に意思連絡がないのであれば、各自の暴行と傷害の部位・程度を証拠により明確に特定し刑法204条を適用すべきである。もし暴行と傷害の因果関係が不明であれば、その旨を判示して刑法207条を適用し、各自に全部の責任を負わせなければならない。原判決はいずれの場合に該当するかを明らかにしておらず、理由不備の違法がある。
結論
被告人らの間に意思連絡があるか、あるいは因果関係が不明であるか等の法的構成を明らかにしないまま、単に刑法204条のみを適用した原判決には理由不備の違法があり、破棄を免れない。
実務上の射程
同時傷害の特例(207条)の適用場面を、①共同正犯(60条)、②単独犯(因果関係判明)、③同時犯(因果関係不明)の3つの類型に整理して論じる際の基礎となる判例である。答案上は、共犯関係(意思連絡)の存否をまず検討し、それが否定された場合の予備的構成として207条の適否を論じる流れで活用する。
事件番号: 昭和23(れ)246 / 裁判年月日: 昭和23年6月12日 / 結論: 棄却
一 刑事訴訟法第三六〇條第一項によつて判決に記載することを要求せられて居る罪となるべき事實を證據により認めた理由の説明はどのような犯罪事實をどのような證據で認めたかに付いて裁判官の推理判斷の由來するところを判決自體から知り得る程度に記載すれば足りるのであつて、必ずしも犯罪事實の各部分に付いて之に該當する證據内容を一々具…