同一の事實について相互に矛盾する數個の證據がある場合には事實審裁判所はその自由な心證に從つてそのうち何れが眞實に符合するかを判斷して取捨選擇することができるのであつて特定の證據を他の證據より優れた證明力あるものとして他に優先して證據に採用しなければならないことはない、したがつて原審が何れも適法なものである原判決舉示の各證據を判示第一事實の認定の資料として採用しその措信しなかつた原審公判に於ける被告人の供述を證據に採用しなかつた點に實驗則に反するところはない。
證據の取捨選擇の自由と實驗則
刑訴法337條
判旨
同一の事実に付いて相互に矛盾する数個の証拠がある場合、裁判所は自由心証によりそのうち何れが真実に符合するかを判断して取捨選択することができ、特定の証拠を他より優先して採用すべき義務はない。
問題の所在(論点)
同一事実について公判廷での否認供述と、それと矛盾する内容の検察官面前調書等が存在する場合に、裁判所がいずれの証拠を採用するかを決定する基準、および特定の証拠を優先すべきか否か(自由心証主義の限界)。
規範
刑事訴訟における事実の認定は、裁判所の自由な心証に委ねられる(自由心証主義)。同一事実について矛盾する複数の証拠が存在する場合であっても、裁判所はその自由な心証に従って、何れが真実に符合するかを判断して取捨選択することができ、特定の証拠(公判供述等)を他の証拠(検察官面前調書等)より優先して採用しなければならないという制約は存在しない。
重要事実
被告人が拳銃を不法に所持した事実に関し、第一審の公判調書における被告人の自白的な供述および共犯者等の検察官面前聴取書が存在した。一方で、被告人は原審の公判廷においては「拳銃を持って歩いたことはない」「他人が持参したものである」と述べ、犯行を強く否認した。弁護人は、否認供述や他の逮捕手続書等の記載に照らせば、原審が被告人の自白的な供述等を採用して事実認定を行ったことは、実験則に反し、理由不備あるいは審理不尽の違法があると主張して上告した。
事件番号: 昭和25(れ)1203 / 裁判年月日: 昭和25年12月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の供述証拠に細部の食い違いがある場合でも、論理則や経験則に反しない限り、自由心証によりその一部を採択して事実認定を行うことは許容される。証拠の総合的な評価は裁判所の合理的な裁量に委ねられている。 第1 事案の概要:被告人と共犯者の各供述において、共謀の発議者、共謀の場所、盗品の処分方法といった…
あてはめ
本件において、原審は適法な証拠能力を有する検察官面前聴取書および第一審公判調書を証拠として採用し、これに基づいて被告人の拳銃所持という事実を認定した。これに対し、被告人が後の公判で否認に転じた供述を信じなかった。自由心証主義の下では、裁判所は複数の証拠の中からどの証拠が真実らしいかを自由に判断できるため、原審が検察官面前調書等の証明力を高く評価し、公判での否認供述を排斥したことは、特段の不合理がない限り実験則に反するものではない。また、判示された所持場所の認定についても、挙示された証拠の内容に合致しており、認定過程に違法はない。
結論
裁判所は自由な心証により証拠を取捨選択できる。原審が矛盾する供述の中から特定の証拠を信じ、被告人の否認供述を採用しなかったとしても、実験則に反する等の違法はなく、事実認定に誤りはない。
実務上の射程
刑事訴訟法における自由心証主義の基本原則を確認した判例である。答案上では、証拠の証明力の評価や取捨選択について裁判所の広範な裁量を基礎づける際に引用する。特に、公判供述と検面調書が矛盾する場合において、検面調書を重視した認定を正当化する論拠として有用である。
事件番号: 昭和23(れ)525 / 裁判年月日: 昭和23年9月21日 / 結論: 棄却
一 銃砲等所持禁止令にいわゆる「所持」とは自分の支配し得べき状態に置くことをいうのである。他人から預つた物で自己の所有に屬しないということは「所持」ということの妨とならない。論旨にいう樣に人から預つて自宅の水屋の引出に入れて置いたという行爲は其れ丈けで右「所持」に該當するのである。父と同居して居り父の家であつても自分が…
事件番号: 昭和24(れ)1759 / 裁判年月日: 昭和25年1月10日 / 結論: 棄却
論旨は、審理の冒頭における概括的な犯罪事実の承認によつて、犯罪事實の内容に亘り全部を認めたものとすることはできないと主張するなるほど、被告人が概括的の問答では犯罪事實を認めても、個々の點についてはこれに反する供述をしたような場合には、冒頭の答えだけで細部に亘る悉くの事實を認めたものとは云い難いこともあらう。しかしその何…
事件番号: 昭和26(れ)713 / 裁判年月日: 昭和26年7月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠の取捨選択や事実認定に関する非難、および量刑不当の主張は、刑事訴訟応急措置法13条2項に基づき、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が原判決の証拠取捨選択および事実認定を非難し、あわせて量刑が不当であるとして上告を申し立てた事案。 第2 問題の所在(論点):原審の専権事項で…
事件番号: 昭和23(れ)1388 / 裁判年月日: 昭和24年3月5日 / 結論: 棄却
一 直接審理主義や口頭辯論主義の建前をとることは必ず被告人の公判廷における供述のみに措信しなければならぬという結論を生むものではない、被告人の公判廷に於ける後述と所論の如き公判外における供述とが異る場合にその何れを採用するかは事實審裁判所が審理の手續を適法に履踐する以上自由に取捨判斷することが出來ることは當裁判所の屡々…