一 直接審理主義や口頭辯論主義の建前をとることは必ず被告人の公判廷における供述のみに措信しなければならぬという結論を生むものではない、被告人の公判廷に於ける後述と所論の如き公判外における供述とが異る場合にその何れを採用するかは事實審裁判所が審理の手續を適法に履踐する以上自由に取捨判斷することが出來ることは當裁判所の屡々判例とするところである。 二 原審は被告人Aの辯護人よりの所論の申請を一應は却下したけれども結局公判期日において同證人に對する訊問の機會を被告人Aに與えたのであるから同證人の供述を録取した所論の聽取書を前記判示事實認定の證據としても何ら刑訴應急措置法第一二條第一項に違反するものではない。 三 憲法第三六條にいわゆる「残虐な刑罰」とは人道上残酷と認められる刑罰という意味であつて事實審の裁判官が普通の刑を法律で許された範圍内において量定した場合にはそれが被告人の側から見て「過酷」と思はれるものがあつてもこれに當らないことは既に當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第三三三號昭和二三年六月二三日大法廷判決参照)原審は判示の如く強盜教唆並びに拳銃所持の事實を認定し被告人に對して法定刑の範圍内において懲役六年の實刑を言渡したのであるから憲法第三六條にいわゆる「残虐な刑罰」を科したものでないことは多言を要しない。 四 右の事實(詐欺罪の前科)と本件犯罪とは刑法第五六條以下に規定する累犯の關係にはないし舊刑事訴訟法第三六〇條所定の事項にも該當しないのであるから原判決がこの點について何らの判斷も示さなかつたことは固より當然のことであつて所論のように理由不備とか判斷遺脱の違反はない。 五 判決においていかなる程度に辯護人の意見に對する判斷を説示すべきかは舊刑事訴訟法第三六〇條の明定するところであつて辯護人の辯論であるからとて輕重を問はず悉く、これに對する判斷を明示しなければならぬものではない、原審公判調書及び所論の辯論要旨に基いて原審辯護人の主張を檢討するに所論の主張は結局事實の認定證據の取捨判斷並びに量刑に關する意見及び犯情に關する事實の開陳に歸着するのであつて、原判決はその認定した事實、該事實認定の資料として採用した證據及び科刑を判示することによつて辯護人の前記意見に對してはその判斷を示してをり證據取捨の理由量刑の理由及び犯情に關する事實の有無は前示法條所定の事項に該當しないのであるから、原判決がこの點につき特に判斷を明示しなかつたのは當然のことであつてこの點に關する辯護人の主張を排斥し理由を判示しなかつたからとて直ちに所論のようにこれを無視したものと即斷することは出來ない。 六 論旨は原判決が辯護人の辯論中にある主張につい審理判斷を示さなかつたことは憲法第一三條等に違反する旨主張するのであるが舊刑事訴訟法第三六〇條所定の事項については原判決書にその判斷が示されていること前述のとおりであるからこの點については所論の違憲問題を判斷するまでもないことであり同條所定の事項以外の點については特に示さずとも、違憲の問題などを生ずるものでないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第一七一號、昭和二三年五月五日大法廷判決参照)
一 被告人の公判廷の供述と公判廷外の供述とが異る場合と採證の自由 二 聴取書の供述者に對する辯護人の證人申請を一應却下しながら結局公判期日に同證人に對する訊問の機會を被告人に與えた場合その證言を證據に採ることの可否 三 憲法第三六條にいわゆる「残虐な刑罰」の意義 四 刑法第五六條規定に累犯關係に立たない前科(詐欺罪)についての判斷判示の要否 五 辯護人の主張に對し判斷を示す限度 六 舊刑訴三六〇條所定以外の事項につき判斷を示さないことと憲法違反の有無
舊刑訴法337條,舊刑訴法360條,刑訴應急措置法12條1項,憲法36條,刑法56條
判旨
被告人の公判外の供述と公判廷での供述が矛盾する場合、いずれを証拠として採用するかは事実審裁判所の自由な合理裁量に属する。また、被告人に証人尋問の機会が実質的に与えられていたのであれば、当該証人の公判外の供述書を証拠としても憲法・刑訴法上の反対尋問権の保障には反しない。
事件番号: 昭和24(れ)1614 / 裁判年月日: 昭和26年8月28日 / 結論: 棄却
盗難被害者によつてその被害顛末を報告するため作成せられ捜査官憲に提出された記録に編綴された犯罪届書は、旧刑訴第三四〇条にいわゆる証拠書類である。
問題の所在(論点)
1. 被告人の公判外の供述と公判廷の供述が食い違う場合、裁判所は自由にいずれかを選択できるか。2. 当初は証人尋問申請を却下しながら、他被告人の申請で喚問された証人に対し尋問の機会を与えていた場合、当該証人の供述調書を証拠とすることは許されるか。
規範
1. 公判廷外の供述の証拠能力と採否:直接審理主義や口頭弁論主義の原則の下においても、被告人の公判外の供述と公判廷での供述が異なる場合に、いずれを採用するかは事実審裁判所の適法な職権行使による自由な取捨選択に委ねられる。2. 反対尋問権の保障:証人の公判外の供述録取書を証拠とする際、被告人側に当該証人を尋問する機会が実質的に与えられていたのであれば、手続的保障として適法であり、証拠能力は否定されない。
重要事実
被告人Aは強盗教唆等の罪で起訴された。第一審(原審)において、被害者Eの司法警察官に対する供述調書が証拠として採用された。弁護人は当初、Eの証人尋問を申請したが却下された。しかし、その後の公判期日において、共同被告人Bの弁護人の申請によりEが証人として喚問された。その際、被告人A及びその弁護人も出頭し、裁判長からEに対する尋問の機会を促されたが、被告人側は「尋問することなし」と回答した。被告人側は、公判廷での供述と異なる公判外の供述を証拠としたことや、証人尋問申請の却下等を理由に上告した。
あてはめ
1. 公判廷外供述の採否について:被告人の心境変化等を理由に公判廷供述の優越を主張する論旨は、事実審の専権に属する証拠の取捨選択を非難するものにすぎず、裁判所が適法な手続を経ていずれかを選択することは自由である。2. 反対尋問の機会について:原審は当初Aの申請を却下したが、後の期日でEを証人として喚問し、A及び弁護人が立ち会う中で尋問の機会を実質的に与えている。被告人が自ら尋問を行わなかったとしても、機会が付与されていた以上、Eの供述調書を事実認定の証拠とすることは刑訴法(応急措置法)に違反しない。3. 宣誓の有効性について:証人の宣誓書が他人の筆跡と酷似していても、公判調書に宣誓の旨が記載され、直接尋問の機会があった以上、証拠採用に違法はない。
結論
被告人の公判外の供述や被害者の供述調書を証拠として事実認定を行った原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
伝聞例外や直接主義に関する初期の重要判例。被告人自身の供述の矛盾(自白の任意性・信用性)や、反対尋問権の保障(実質的な尋問機会の付与)が争点となる事案で、手続の適法性を肯定する論理として活用できる。特に「機会の付与」があれば足りるとする点は実務上重要である。
事件番号: 昭和26(れ)588 / 裁判年月日: 昭和26年7月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】警察段階での自白が拷問によるものと疑われる場合であっても、それが証拠として引用されておらず、かつ他に拷問を裏付ける資料がない場合には、憲法38条違反の問題は生じない。また、原審で証人喚問の申請がなされていない以上、証人尋問の機会を奪ったとする違憲の主張は成立しない。 第1 事案の概要:被告人Aは警…
事件番号: 昭和26(あ)1630 / 裁判年月日: 昭和27年7月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の否認の供述であっても、その一部に自認する内容が含まれる場合には、これを証拠として犯罪事実を認定することができ、直ちに自白のみによる有罪判決の禁止(補強法則)に抵触するものではない。 第1 事案の概要:被告人が公判等において犯行を否認していたが、その供述内容の中に一部、犯罪事実に合致する自認…
事件番号: 昭和24(れ)1252 / 裁判年月日: 昭和24年7月5日 / 結論: 棄却
一 公判廷において證據調をした書類を公判調書に記載するには如何なる書類につき證據調がなされたかを明確にすれば足り、必ずしもその書類の一々に付き個別具體的に掲記する必要のないことは、しばしば當裁判所の判例(例へば昭和二二年(れ)第二七七號同二三年四月八日第一小法廷判決)に示されている通りである。 二 しかし憲法第三七條第…