一 刑訴應急措置法第九條で、豫審は行わないと規定したからといつて、同法施行前に、適法になされた豫審判事の被告人等に對する訊問調書が、そのために證據能力を失うものでないことは、無論のことであり、又、豫審判事の訊問を受けた共同被告人や證人が、その後公判廷において、豫審とは違つた供述をした場合、豫審の供述を録取した調書が當然にその證據力を失うものでもない。かような豫審調書が、どの程度證據としての價値を持つかは、一に裁判官の自由裁量にまかせられたところであつて、公判における供述を證據にとるか、または、これを信用するに足らぬものとして豫審訊問調書を證據にとるかは、全く裁判官の自由である。 二 刑訴應急措置法第一二條は、證人その他の者の供述を録取した書類について更に公判で、その供述者訊問の機曾を與えた上でなくては、かかる書類を證據とすることはできないと定めたのであつて、むしろかかる機曾を與えた上は、裁判官の自由の心證に從つて、その供述録取の書類を證據することができる旨を定めたものと解すべきであつて所論のように同條によつて、刑事訴訟法第三三七條に定められた證據に關する裁判官の自由心證主義が制限せられたと解すべき何らの理由もない。
一 豫審の廢止と豫審調書の効力 二 刑訴應急措置法第一二條と自由心證
刑訴法337條,刑訴應急措置法12條
判旨
予審判事が作成した供述録取書類等の証拠力は裁判官の自由な裁量に委ねられており、公判廷での供述と抵触する場合であっても、裁判官が自由心証に基づき予審調書を証拠として採用することは許される。刑事訴訟法応急措置法下においても、被告人に反対尋問の機会が付与されている限り、自由心証主義は制限されない。
問題の所在(論点)
公判廷において予審時と異なる供述がなされた場合に、予審訊問調書の証拠力を認めてこれに基づき事実認定を行うことは、自由心証主義の範囲内として許容されるか。
規範
刑事訴訟法上の自由心証主義(旧刑訴法337条)は、応急措置法下においても制限されない。証人等の供述を録取した書類について、公判で当該供述者を尋問する機会(反対尋問権の保障)が与えられているのであれば、公判廷の供述と予審調書の記述のいずれを信用し証拠とするかは、専ら裁判官の自由な心証に委ねられる。
事件番号: 昭和23(れ)1388 / 裁判年月日: 昭和24年3月5日 / 結論: 棄却
一 直接審理主義や口頭辯論主義の建前をとることは必ず被告人の公判廷における供述のみに措信しなければならぬという結論を生むものではない、被告人の公判廷に於ける後述と所論の如き公判外における供述とが異る場合にその何れを採用するかは事實審裁判所が審理の手續を適法に履踐する以上自由に取捨判斷することが出來ることは當裁判所の屡々…
重要事実
被告人(上告人)Eは、共犯者A及びBが強盗を行うことを知りながら拳銃等を貸与したとして強盗幇助罪で起訴された。原審は、Eおよび共犯者の予審訊問調書を証拠として有罪を認定したが、AおよびEは公判廷において予審時の供述を翻し、幇助の事実を否定する供述を行っていた。弁護人は、公判廷での生きた供述がある以上、それに反する予審調書の証拠力は否定されるべきであり、予審調書を優先した原判決は自由心証主義の限界を超え違法であると主張して上告した。
あてはめ
刑事訴訟法応急措置法12条は、供述録取書類の使用に関し、公判で供述者訊問の機会を与えることを求めているが、これは反対に、当該機会を与えた後であれば裁判官が自由な心証で書類を証拠にできることを意味する。本件において、原審は弁護人の申請により共犯者Aを証人として訊問しており、被告人側に直接訊問の機会が保障されていた。この手続を経た以上、公判廷の供述を「信用し難い」と排斥し、予審調書の内容を「真実である」と採用することは、裁判官の合理的な裁量の範囲内であるといえる。
結論
予審調書の証拠価値の判断は裁判官の自由裁量に属し、公判廷の供述と異なる内容であっても、適法な証拠調べ手続を経ている限り、これを証拠として有罪を認定することは適法である。
実務上の射程
伝聞例外(現行法321条1項等)の要件を充足し証拠能力が認められる書類について、その証明力をどのように評価するかは裁判官の自由心証に属することを確認する事例。公判供述と書面供述が矛盾する場合の「評価」のプロセスにおいて、反対尋問権が保障されていれば、書面を優先して事実認定を行うことも憲法・訴訟法上許容されるという指針を示す。
事件番号: 昭和23(れ)1449 / 裁判年月日: 昭和24年2月22日 / 結論: 棄却
控訴審において、証拠調を終つた後に、検事が「原判決と同様に審判せられるを相当と思料する」と述べたときは、適法に、事実及び法律の適用について意見を陳述したものというべきである。